Seventieth Fifth Melody―いざ、あの聖地へ―


西 千 葉 県 大 会 決 勝 戦
先   攻 後   攻
国 立 玉 山 高 校 VS 桜  花  学  院
3年SS漆   原 森   岡SS3年
2年CF  巧     漣   3年
3年RF真   田 真   崎2B3年
3年3B飛   騨   姿  1B 3年
3年達   川 松   倉3年
3年1B長 谷 川 滝   口 LF2年
3年鈴   村 久   遠 RF3年
3年2B多   村 佐 々 木CF 3年
3年LF森   本 倉   科3B3年


シュウ「さぁ地区予選、最後の試合だ! 気合入れていくぞ!」

全員「おぉっ!」

連夜「さて綾瀬抜きがどこまで響くか、だな」

真崎「選手じゃねーんだ。それぐらいの穴、俺が埋めてやるよ」

木村「真崎、ほんとに大丈夫なのか?」

真崎「今まで高波や月見里のおかげで休めてましたからね。もう休んでられないでしょ」


 父親のショックがあったことも考慮し、木村と慎吾はこれまで真崎をスタメンから外していた。


月見里「俺もいるんで無理な時は早めに言ってくださいね」

真崎「言ってくれる、が大丈夫だ」

姿「相手は鈴村だ。当然、お前やシュウの足がカギになるはずだ」

真崎「あぁ」

シュウ「任せて!」

連夜「後は松倉の出来だな」

松倉「あいよ、任せとけ」



鈴村「決勝まで上がってきたか、桜花め」

漆原「何だかんだで結構やってるよね、うちと桜花って」

真田「秋の大会と違って松倉や漣が復帰してる。なめてかからない方がいい」

鈴村「ここまで来て、んなマネするか」

達川「後、1勝で甲子園だ。何とか行きたいな」

鈴村「行きたい、じゃなくて行くんだよ」

飛騨「その為に1年から厳しい練習をやってきたんだしな」

真田「行こう」

漆原「よっしゃ、テメェら! 俺にしっかりついてこい!」

鈴村「俺の台詞だ!」

達川「………………」


 両チームが整列し、挨拶を交わし後攻の桜花ナインが守備位置に散らばる。  投球練習終了し、国玉のトップバッター漆原が左打席に入り、プレーボールがかかる。


松倉「しっ!」


ズバァッ!


漆原「おぅ!?」


 初球から内角のストレートでストライクを取りに来た桜花バッテリー。


連夜「(よしよし、いいぞ)」


スゥッ!


ガキッ!


シュウ「オッケイ!」


ビシュッ


漆原「くっ!?」


グググッ!


ガキッ


巧「あっ!」


 ミート力があり足もあるうるさい1、2番を変化球で打たせてとる。  そして打席には3番の真田を迎える。


真田「………………」

連夜「(真田のバッティングは天才的だ、が唯一無二の穴がある)」

松倉「(アウトローか……)」


 最もことアウトローに関して言えば打率が高い選手がいる方が珍しい。  真田もある意味、一般的な打者とも言える。  他のコースはおかしいぐらい打つが……


連夜「(ここまで明らかになってる弱点だ。攻めない方がおかしい)」


ビシュッ!


真田「――!」


ズバァンッ!


松倉「(だが本当にまだ打てないのか?)」


 他のコースなら素晴らしい打撃を披露する真田が、弱点を放っておくのか?  そんな一抹の不安が松倉にはあった。


連夜「(まぁ、どっかで内角は見せなきゃいけないだろうけど最初は一辺倒でも良いだろ)」


ググッ!


ガキッ!


真田「ぐぅっ!」

姿「(スッ)


 アウトローから僅かに曲げたスライダー。  芯を外し、ファーストゴロに倒れる。


連夜「あの打ち方、どうやら弱点は克服してないようだな」

松倉「あの真田でも苦労するんだねぇ」

連夜「俺も甘い球打てねぇし、一緒だろ」

松倉「お前と一緒ではない気がするけどな」


 1回裏、桜花の攻撃は不動のトップバッター、シュウ。


鈴村「よし、俺も負けられん!」

達川「熱くなるのはいいが、コントロール気をつけろよ」

鈴村「あいよ。その辺はリード通り投げるし」

達川「オッケイ」


シュウ「さぁ、来い!」

鈴村「ふしっ!」


ズッバァンッ!


シュウ「くぅ……速い!」

鈴村「どんどん行くぜ!」


ズッバァンッ!


シュウ「キュッ!?」


ズッバァンッ!


連夜「チィッ!」


 鈴村も松倉に負けじと1番シュウ、2番連夜をストレート1本で抑える。  自慢のストレートを更に磨きをかけてきたようだ。


連夜「速いぞ。振り遅れないようにな」

真崎「了解」


 ここで打席には復帰した真崎が入る。


達川「(今大会、初打席か……)」


 ニュースでも大々的に流れていたため、鈴村たちも真崎の事情は知っていた。  そのせいで今大会も控えにまわってるという憶測も立てていた。


達川「(ここ一番だから出てきたんだろうけど、実戦不足で鈴村の速球は打てまい)」

鈴村「しっ!」


ビシュッ!


真崎「ハァッ!」


パキィンッ


鈴村「んなっ!?」


 打球は三遊間の真ん中を破るレフト前ヒット。  両チーム初ヒットは桜花の真崎から出た。


ガキィッ!


姿「ゲッ!?」


漆原「ほい」


 だが4番姿がストレートにつまらされショートゴロに倒れる。


鈴村「くそ、真崎め。やりやがるな」

達川「後、姿もな。お前のストレートに当ててきやがった」

鈴村「成長してるってわけか。ま、当然だろうな」


連夜「流石鈴村って感じだな」

松倉「この大事な一戦で根競べに負ける気はないよ」

連夜「あぁ、その意気だ」


 2回の表、国立玉山の攻撃は4番の飛騨から。


カキィーンッ


松倉「あっ!?」

飛騨「おっし!」


 その飛騨がツーベースヒットで出塁する。


松倉「(くそ、甘く入った……)」

連夜「ドンマイ、松倉。後、抑えていこう」


カッキーン


久遠「(パシッ)


ダッ


達川「ま、最低限かな」


 続く5番達川はライトへのフライ、2塁ランナー飛騨が3塁に進塁した。


松倉「しっ!」


グググッ!


ガキッ


真崎「しゃあ」

飛騨「くっ!」


 前進守備のセカンド真崎へのゴロ。  飛騨は突っ込めず、目で牽制しながら真崎は1塁へ。


鈴村「うし、俺が点を取る!」

松倉「させるかよ!」


ズバァッ!


主審『ストライクッ! バッターアウトッ!』


鈴村「くっ!?」

松倉「しゃあ!」


 2死3塁のピンチでもきっちりと鈴村を三振に抑える。


鈴村「くそっ、やるな」

飛騨「投げ合いになるな。頼むぜ、鈴村」

鈴村「あぁ、0点で抑えれば負けることはない!」


 両投手の気迫が試合を中々動かさない。  2回裏、3回表は共に3者凡退。  そして3回裏、1死から倉科がヒットで出塁する。


透「どや!」

鈴村「やつめ、何で9番打ってるんだ?」

漆原「ゲッツーに取ろう」

鈴村「ん。だが、次はシュウだ。無理はしなくていいからな」


木村「シュウ!」

シュウ「はいさー!」


コッ


鈴村「なっ!?」

飛騨「任せ!」


ビシュッ!


1塁審『アウトッ!』


シュウ「くはぁ……」


 シュウがセーフティバントを仕掛けるもサード飛騨が良い動きを見せ、1塁はアウトに。  ただ倉科は2塁に進塁し、得点圏で打席には2番連夜。


連夜「ふぅ……1点欲しいな」

鈴村「やるかよ!」


ビシュッ!


連夜「くのっ!」


ズッバァンッ!


連夜「チィッ!」

鈴村「へっ!」

連夜「(ダメだ。この構えじゃ振り遅れる……)」


スッ


達川「(構えを変えた……?)」

鈴村「はっ!」


ピキィーン


連夜「ッ……これでも捉えられねぇのかよ」


 ストレートを叩いた打球は右中間へ。


ダダダダダッ!


巧「(パシッ)


連夜「あー……」


 守備範囲の広いセンター巧がランニングキャッチ。  得点にまでは至らなかった。


透「その構えで詰まらされるやなんてな」

連夜「しかも得意コースでな。内角ならともかく……」


鈴村「ふん!」

達川「オッケイ、ナイスピー」


 ベンチに帰っていく鈴村の後ろ姿を睨む連夜。  長打を狙う構えで真ん中付近のボールを捉えられなかったのは相当悔しかったようだ。


コッ!


松倉「んなっ!?」

連夜「チッ!」


 4回表、先頭の2番巧が絶妙なバントヒットで出塁する。


グググッ!


カァンッ


真田「ぐっ!?」


真崎「よっしゃ、森岡!」


シュッ!


シュウ「はいよ!」


シュッ!


 しかし落ち着いて3番真田のウィークポイントをつき、併殺打に抑える。


松倉「しっ!」


ズバァンッ!


飛騨「あっ!?」


主審『ストライクッ! バッターアウトッ!』


松倉「しゃあ!」


 バントヒットは許すも結果的には上位打線を3人で抑えた。


鈴村「はっ!」


ビシュッ!


真崎「おらぁっ!」


キィンッ


ググッ!


カァンッ


鈴村「(くっ、粘ってくるか……!)」

真崎「(何とか突破口を……!)」


ズバァァンッ!


主審『ボールッ! フォアボール!』


真崎「しゃあ!」

鈴村「ぐっ!?」


 先頭の真崎が粘ってフォアボールで塁に出る。  無死1塁で打席には4番姿。


達川「(姿はストレートに弱い……っていう明確な弱点がある)」

鈴村「………………」

達川「(鈴村のストレートなら余裕だが、それでいいという確信を与えないのがこの姿という男……)」

姿「………………」


 打席での雰囲気がストレートで抑えられるのか、という一抹の不安を与える。  だが迷うのもそこまで。鈴村の武器は何と言ってもストレート。


達川「(このストレートが打たれるようならそれまでか)」


 ミットを叩き、力強く構える。  その恋女房の仕草に僅かに笑みを浮かべ、セットポジションに入る。


鈴村「しっ!」


ズッバァンッ!


姿「くっ!」

真崎「(打てそうにねぇな)」


 2球目、バッテリーが姿に意識を向けている中、真崎が仕掛ける。


ダッ!


鈴村「なっ!?」


ビシュッ!


達川「(バシッ)


ビシュッ!


ズシャアァッ!


2塁審『セーフッ!』


達川「やられた」

真崎「うっし! 頼むぜ、姿!」


ズッバァンッ!


主審『ストライクッ! バッターアウトッ!』


真崎「(ガクッ)

姿「くそっ!」


 しかし姿は鈴村の前に三球三振に倒れ、ワンアウト。  続く松倉がセカンドゴロに倒れ、その間に真崎は3塁へ。


滝口「よし、打つぞ!」

達川「(姿と打って変わってストレートには強い滝口か……)」

鈴村「(曲げる気なんてサラサラねぇよ)」

達川「(……OK、来い!)」


ビシュッ!


ガキャァンッ!


滝口「超えろッ!」


 ストレートに詰まらされるも打球は内野の頭を超え……


漆原「くのっ!」


ビシッ


 ジャンプ一番、ショート漆原のグラブをかすめ外野の前にポトリと落ちた。


真崎「ナイスバッティング!」


 3塁から真崎が還り、滝口のタイムリーヒットで桜花が1点を先制。


ググッ!


佐々木「なっ!?」


ガキッ


 更に久遠には四球を与えるも、8番佐々木を内野ゴロに打ち取り1点で踏ん張った鈴村。  桜花にしてみれば後、1本欲しかったところだ。


鈴村「くそっ!」

達川「まだ1点だ」

漆原「切れるには早いじょ」

鈴村「分かってるよ」


木村「松倉、漣、守ろうとはするなよ」

連夜「もちろんです」

松倉「はいっ」


 5回表、先頭の達川が粘ってフォアボールで出塁するとすかさず送り1死2塁。


カァァンッ


鈴村「しゃあ!」


 7番に入っている鈴村がライト前へ。


ダッ!


 2塁ランナー達川が3塁を蹴る。


久遠「いかすかい!」


ビシュッ!


達川「ととっ!」


連夜「このっ!」


ビシュッ!


3塁審『セーフッ!』


透「惜しいなぁ」

達川「危ねぇ」


鈴村「還れないか……」


 強肩久遠が進塁を止める。  だが1死3塁1塁とチャンスになるが……


松倉「しっ!」


グググッ!


ズバァッ!


主審『ストライクッ! バッターアウトッ』


松倉「しゃあ!」


 後続を松倉が抑え、国玉に点を与えない。


鈴村「………………」


 点が中々入らないもどかしさ。  その僅かな心理状態の隙を桜花がつく。


ピキィンッ!


シュウ「おーし!」


 1死から1番シュウがヒットで出塁すると……


ダッ!


 すかさず盗塁を決め、1死2塁のチャンスを作る。


達川「くそっ、鈴村と組んでて刺せないってか」


 真崎の時とは違い、完全に走ってくると読んでいたがシュウの足と技術が上回った。


飛騨「鈴村、落ち着け。相手は松倉なんだぞ」

鈴村「……あぁ分かってる。少しイラついてたかもしれん」


 どこかで望んでいたはずのライバルとの投げ合い。  そういう意味では秋季大会は不本意だった。  今、甲子園行きを決める試合をライバルと認めたやつ、チームと投げ合える喜び。


鈴村「だから今日までやってきたんだ!」


ズッバァンッ!


連夜「くっ!?」


主審『ストライクッ! バッターアウトッ』


鈴村「しゃあ!」


連夜「考えたくないが球威が増してきた」

真崎「ま、そうこなくっちゃな」


 2死2塁、打席には今日鈴村と相性がいい、真崎。


鈴村「しっ!」

真崎「うおぉぉっ!」


パッキーンッ


鈴村「何っ!?」


 ストレートを捉えた打球はレフトオーバー。  シュウが3塁を蹴ってホームイン、打った真崎も2塁へ。


達川「(コースが甘かったとはいえ長打にされるとはな……)」

鈴村「ふぅ……」


ビシュッ!


キィンッ!


鈴村「んなっ!?」

姿「落ちろ!」


ポトッ


 更に4番姿がミートに徹したバッティングを見せ、センター前に落ちる。


ビシュッ!


真崎「おらぁっ!」


ズシャアァッ!


主審『セーフッ!』


 センターからバックホームされるも真崎の足が勝り、生還。  0−3、桜花が突き放しに成功した。


キィーンッ


漆原「そう簡単に終わるかい!」


 6回表、1番から始まる好打順。  漆原がヒットで出塁する。


ダッ!


連夜「なにぃっ!?」


バシッ


連夜「いかすかっ!」


ビシュッ!


2塁審『セーフッ!』


漆原「おっしゃあ!」


連夜「すいません、タイムお願いします」


 ここでタイムを要求、連夜がマウンドに行く。


松倉「ん、どうした?」

連夜「いや、ここで走ってくると思わなかったからな。間を置きに」

松倉「ほんと。3点差でお前だもんな」

連夜「漆原のやつ、技術相当磨いてきたようだな」

松倉「次は?」

連夜「ミート力のある小細工の上手いやつか……点差的に送りはないだろう」

松倉「あいよ」


 無死2塁、打席には2番の巧が入る。


キィンッ!


 打球は三遊間の深いところ。


シュウ「(パシッ)


 シュウが捕球するも、どこにも投げられず内野安打に。  無死3塁1塁と桜花にとってはピンチが、国玉にとってはチャンスが広がった。


松倉「しっ!」


グググッ!


ズバァッ!


主審『ストライクッ! バッターアウトッ!』


真田「ぐっ!?」

連夜「お前には打たせねぇよ」

真田「…………ッ」


パッキーンッ


松倉「ゲッ!?」


シュタタタッ


佐々木「よっ!」


バシッ


飛騨「くそっ……!」


 センターへの大きな打球。佐々木が背走しジャンプキャッチの好プレー。  だが3塁から漆原がタッチアップで生還し、3−1となった。


松倉「ふぅ……良かった。流石は佐々木」


ダッ!


松倉「んなっ!?」

連夜「くっ!」


 5番達川の打席で1塁ランナー巧が盗塁を仕掛ける。  虚をつかれたバッテリー、連夜は送球できず盗塁を許す。


カァァンッ!


達川「うしっ!」


 上手くおっつけてライト前へ。  久遠が好返球を見せるもスタート良く飛び出していた巧の走塁が光り生還する。  2−3、名門の意地か、点差をつめてきた。


連夜「盗塁で上手く流れを持ってかれてるな」

木村「気にするな」

シュウ「足には足を!」

真崎「俺らだって盗塁してるしな」

連夜「ん〜……キャッチャーとしては複雑だがな」

透「ほんならこっちも足を使って点とったらええやん」

木村「そういうことだな」


 6回裏、桜花の攻撃は6番の滝口から。  その滝口がストレートに力負けせず外野の前に落とす。


木村「宮本、行くぞ」

宮本「どこにですか〜?」

木村「代走ってことだよ」

宮本「あ、はい〜」

木村「………………」

真崎「大丈夫か……?」


 勝負所と見て、足のある宮本をランナーに送る。  そして7番久遠には送りバントのサインを出すが……


コーンッ


久遠「ゲッ!?」

鈴村「おし!」


 キャッチャーへの小フライに終わり、ランナーを進めることができなかった。


透「佐々木、送れや。ワイがなんとかしたる!」

佐々木「倉科」

透「何のためにワイが9番にいると思おてんねん」

佐々木「了解」


 続く佐々木が送りバントをきっちりと決め、2死2塁。  打席には9番に入っている倉科が入る。


鈴村「おらぁっ!」


キィーンッ!


透「どや!」


バシッ!


透「なっ!?」

飛騨「しゃあ!」


シュッ!


 三遊間への鋭い打球、サード飛騨が横っ飛びで捕球。  落ち着いて1塁に送ってスリーアウトチェンジ。  透は悔しさで叫びながら1塁を駆け抜けた。


木村「宮本、そのままレフトに入れ」

宮本「は〜い」


 7回表、国玉の攻撃は7番の鈴村からだが松倉が抑える。  そしてその裏の攻撃、桜花は1番シュウからの好打順。


キィーンッ


シュウ「おしっ!」


 セカンド頭上を越えるライト前ヒットで先頭のシュウが出塁する。


シュウ「走るぞ、走るぞ。リーリーリー」


鈴村「(うぜぇ……)」


ビシュッ!


連夜「ハッ!」


ピキィンッ!


鈴村「しまっ!」


 更に続く連夜が三遊間を破り、レフト前ヒットで出塁しチャンスを広げる。


真崎「姿」

姿「ん?」

真崎「任せても大丈夫か?」

姿「場面的に送りだろ。任せろよ」

真崎「へへっ、んじゃ頼んだぜ!」


 今日当たっている真崎だったが、ここは送りバント。  上手く決め、ランナーは進塁。1死2塁3塁となり打席には4番姿。


達川「(ここは打たせないぞ)」

鈴村「(分かってるよ)」


ビシュッ!


ズバァァンッ!


姿「(っと振り回したらダメだ。前の打席のように……)」


ビシュッ!


姿「合わせる!」


ググッ!


姿「――!」

達川「(よし、完全に裏をかいた!)」


カァァンッ!


達川「なっ!?」


 予期せぬ変化球だったが、元々は変化球打ちは天才的な姿。  自然とバットが反応し、ボールを捉える。


巧「(パシッ)

シュウ「ゴー!」


 打球は伸びすぎてセンターフライに終わるも3塁ランナーシュウがタッチアップから生還。  2塁ランナー連夜も3塁に進塁する。


鈴村「くそっ……!」

達川「すまん、リードミスだ」

鈴村「んにゃ、あれは姿の方が上だっただけだ。確実に裏をかいたのにな」

飛騨「まだ2点差だ」

漆原「そうそう、次は俺からだしね!」

鈴村「あぁ、頼むぞ」


 タイムを使い、マウンドに集まった国立玉山。  間をあけ、気持ちを落ち着かせ守備位置に散っていった。


鈴村「らぁっ!」

松倉「のやろっ!」


ガキィンッ


 松倉にはストレートの真っ向勝負。  今、最もいいボールを選択したバッテリー。  だが松倉も振り負けず、カウントは2−2、並行カウントとなる。


鈴村「しっ!」


 そして投じた7球目。


キィーンッ!


松倉「おっし!」


 打球はライト前に落ちるヒットに。  3塁から連夜が還り、2−5と桜花が突き放しに成功する。


連夜「よし、良く打った松倉!」


 続く宮本は三振に倒れるもこの回、姿の犠牲フライと松倉のタイムリーで2点取った桜花。  しかし千葉で長らく名門として君臨してきた国玉が次のイニングで意地を見せる。


カキーンッ


漆原「まだ決まっとらん!」


 この回、先頭の1番漆原がヒットで出塁。  2番巧も粘ってフォアボールで出塁し、無死2塁1塁のチャンスを作る。


連夜「どうした?」

松倉「いや、悪い。コース狙ったんだけど」

連夜「まぁ、コースは悪くなかった。巧の選球眼が上だっただけだな」

松倉「このピンチに真田か……」

連夜「ま、あいつは俺が封じ込める。頼むぜ、エース」

松倉「あぁ」


グググッ!


ズバァッ!


真田「ぐっ!?」


 まずはインコースへスライダーを投じる。  今まで外一辺倒だったリードから変化させた。


連夜「お前に仕事はさせねぇ」

真田「……チッ」


グググッ!


ガキィンッ


真田「くそっ!」


真崎「よっと」


 1、2塁間への打球、真崎が俊足を飛ばして追いつく。  2塁には送れず、1塁のみアウトにし1死2塁3塁とチャンスは広がった。


連夜「(それでもヒットコースに飛ばすとはな。流石は真田)」


 真田が倒れるも続く打者はプロ注目のスラッガー、4番飛騨。


飛騨「よし、ここは確実に繋ぐぞ」

連夜「(一発で同点なんだけど、欲出さないのは厄介だな)」

松倉「しっ!」


ビシュッ!


飛騨「うらぁっ!」


パッキーンッ!


ビシッ!


真崎「げっ!?」


 痛烈な打球がセカンド真崎を襲う。  グラブを弾き、外野を転々とする。


久遠「なろぉ!」


ビシュッ!


ズシャアァッ!


主審『セーフッ!』


巧「おーし!」

連夜「チィッ!」


 飛騨のセカンド強襲。記録は真崎のエラーとなった。  久遠が素早くバックアップするも俊足巧が一歩速く滑り込んだ。


真崎「くそー、エラーかよ」

松倉「ドンマイ。まだ1点勝ってる」

シュウ「切り替えていこう」


 更に5番達川にヒットを打たれ、ピンチが続く。  ツーアウトになり、2塁1塁で打席には7番鈴村。


パキーンッ!


松倉「あっ!?」


ダッ!


バシッ!


鈴村「なっ!?」

真崎「しゃあ!」


 セカンド頭上を越えようかという当たりを真崎がジャンプ一番捕球する。  エラーを取り返すファインプレーで同点打をもぎ取った。


鈴村「くそー……真崎め……」

飛騨「今日は真崎と相性悪いな」

鈴村「まったくだ、くそ!」


松倉「よし、ナイス真崎!」

真崎「へへっ、取り返したぜ」


 同点打は抑えたものの、飛騨の強烈な打球を真崎がタイムリーエラーしてしまい、2点を失う。  4−5、国玉が1点差に点差を縮めた。


ズッバァンッ!


久遠「くっ!?」


ググッ


ガキッ


佐々木「あっ!?」


ガキーンッ


透「どや!」


シュタタタッ


巧「(パシッ)


透「なんやて!?」


鈴村「うっしゃあ!」


 8回裏、桜花の攻撃は下位打線だったが鈴村が完全にシャットアウト。  9回、最後の攻撃へ望みを繋いだ。


松倉「よし、ラスト1回!」

連夜「あんまり気負うなよ」

司「いつでもいけるからな」

松倉「今日は手を煩わせないよ」


 9回表、国立玉山の攻撃は8番、下位打線から。


ガキッ!


シュウ「オッケイ!」


ズバァァンッ!


主審『ストライクッ! バッターアウトッ!』


松倉「しゃあ!」


 しかし松倉がテンポ良くツーアウトを取り、残りワンアウト。


鈴村「漆原! 出ろよ!」

漆原「おう!」


ビシュッ!


キィンッ


グググッ!


カァンッ


松倉「ふぅ……」

漆原「(絶対終わらんぞ!)」

連夜「(しぶといな……)」


ズバァッ!


松倉「よし!」

連夜「決まった!」


主審『ボール、フォアボール!』


バッテリー「何ッ!?」

漆原「よっし!」


 粘りに粘ってフォアボールを勝ち取る。  2死から同点のランナー、俊足の漆原が出塁した。


真田「巧、頼む! 俺に繋いでくれ!」

鈴村「真田……」

巧「……はい!」


松倉「しっ!」

巧「ハァッ!」

連夜「(初球からか!)」


ピキィンッ!


真崎「ぬかすかっ!」


ビシッ!


 セカンドベース横への打球、セカンド真崎が追うも弾くのがやっと。  だがショートのシュウが素早くバックアップしていた。


シュウ「そのまま寝てろ、真崎!」


ビシュッ!


 素手で拾ってジャンピングスロー。


ズシャアァッ!


姿「(バッ)


1塁審『セーフッ!』


巧「(グッ!)

姿「くっ!」

シュウ「くはぁ……セーフかぁ……」


 記録はセカンドへの内野安打となり、2塁1塁と同点のチャンス。  ここで打席にはここまで無安打の3番真田。


連夜「(ここで真田か……)」

松倉「(ここまで抑えれている分、怖いものがあるな)」

連夜「(とにかく弱点ついていくぞ)」

松倉「(了解)」


ビシュッ!


ズダッ


連夜「(踏み込んできたか!)」


パキィンッ!


1塁審『ファール!』


真田「チッ!」

連夜「(狙ってて打ち損じたか……)」

松倉「(次は?)」

連夜「(同じコースにチェンジアップ)」


スゥッ!


ブ――ンッ!


連夜「っと……!」

松倉「(振ってきた……)」

連夜「(相当気負ってんな。らしくねぇ)」


 カウント2−0と追い込んだ桜花バッテリー。  スライダー2球、外角に遊んで2−2となり勝負球は!?


ズダッ!


連夜「(かかった!)」


グググッ!


真田「くっ! ないか――!」


ガキィンッ


 外を狙って踏み込んだ真田だったが、来たのはインコースのスライダー。  そう、松倉がこの夏のために武器として練習に練習を重ねたインスラだった。


シュウ「オッケイ!!!」


ダンッ


 打球は平凡なショートゴロ。シュウが捕って、力強くセカンドベースを踏んだ。  その瞬間、審判のアウトの声が高々と響き渡りマウンド上松倉の元にナインが駆けた。  4−5、桜花が1点差の好ゲームを制した。


シュウ「勝ったぁっ!」

松倉「しゃあ!」

透「やったで!」

連夜「ふぅ……冷や冷やしたがな」

真崎「これで良い報告出来そうだな」


 1塁ベース付近では真田が手を膝におき、俯いていた。


真田「………………」

姿「らしくねぇな」

真田「ん?」

姿「最後まで苦手なコースを狙ってたろ。最後のボール、お前ならヒットに――」

真田「俺はお前と違って弱点を克服できなかった。そこがこの結果に繋がった。それだけだ」

姿「……俺だって克服したわけじゃねぇよ。でも鈴村のストレートを打てたのはあいつらのおかげだ」


 姿はマウンド上でもみくちゃ合っている仲間たちを見た。


姿「後に繋げばあいつらが何とかしてくれる。その一心だよ」

真田「繋ぐ意識か……俺の後ろにも飛騨や達川がいたのにな……」

姿「バッティングじゃお前に敵わないのに、それだけでチームの勝敗は決まるわけじゃない、それが野球かな」

真田「良く言うぜ……」


真崎「おい、姿も来いよ!」

姿「あぁ!」

真田「姿」

姿「ん?」

真田「優勝して来いよ」

姿「……あぁ」


パァンッ


 気持ちいいタッチの音が響いた。  そして姿は和の中に入っていった。


鈴村「真田」

真田「鈴村……すまん」

鈴村「お前で負けたんだ。仕方ない」

飛騨「くそ、くそっ!」

達川「後ちょっとだったのに……」

鈴村「泣くな!」

漆原「鈴村……」

鈴村「気持ち良く送りだしてやろう。あいつらは俺らの代表だぜ!」


審判『礼!』


全員「ありがとうございました!」


パチパチパチッ!


鈴村「俺らの分も頑張ってくれよ」

松倉「必ず」

漆原「負けたら承知しない!」

シュウ「おう!」


ガシッ!


 強く握手を交わした。  ライバルの想いを胸に桜花学院、2年連続で夏の甲子園の舞台へ!


…………*


真崎「これで綾瀬に良い報告が出来るな」

姿「だな」

連夜「これで負けましたなんて言えないもんな。送りだした身としては」


 バスに乗り込もうとしていたところに星音と京香が駆けてきた。


星音「皆!」

連夜「星音、どうした?」

星音「大変なの!」

京香「綾瀬くんが……!」

真崎「綾瀬が?」

星音「救急車で病院に運ばれたって!」

姿「なっ……!」

真崎「なんだって!?」


 最高の気分だった皆が一転した。  果たして慎吾の容態は……!?




THE NEXT MELODY


inserted by FC2 system