Eightieth Melody―Scenario―


 準々決勝の相手は奇しくも昨年と同じく愛媛代表の豊宣学園となった。


連夜「何かの因縁かねぇ」

司「今年はエース、白夜くんで勝ちあがってるみたいだぞ」

松倉「高波の次はお前か」

連夜「ま、どんぐらい成長したか見てやるか」

木村「今日は何か言うことないのか?」

連夜「ないっすよ。シュウの後の方がチャンスでまわってきやすいですしね」

シュウ「任せといて!」

透「ワイは昨年出場できなかったやさかい、楽しみや」

連夜「ビャクか……」

司「和解はしたんだろ?」

連夜「一応ね。今日はある意味、真剣勝負だな。本当の」


 昨年はいがみ合っていた兄弟対決。  本当の意味での真剣勝負が今、始まろうとしていた。


甲 子 園 大 会 準 々 決 勝
愛媛県代表 西千葉県代表
豊  宣  学  園 VS 桜  花  学  院
3年2B進   藤 森   岡SS3年
2年SS冴   神   漣   3年
3年水   神 真   崎LF3年
3年CF火   影   姿  1B3年
2年RF大   澄 松   倉 3年
2年  漣   久   遠RF 3年
3年LF金   子 佐 々 木CF3年
3年3B岡   田 月 見 里2B1年
3年1B山   崎 倉   科3B 3年


滝口「なんでスタメン外れてんですか!」

木村「相手の漣の弟は緩急を使うからな。お前、緩急に弱いもん」

滝口「うぅ……緩急ってことで急の可能性もあります!」

木村「ま、ここ一番の一発が欲しい時は出すからさ」

滝口「こうやって好選手は干されていくのか……」

木村「と、とにかく月見里、頼んだぞ」

月見里「はい」

真崎「俺の代わりのセカンドだ。きっちり守れよ」

月見里「守備でいえば全然問題ないでしょう」

姿「だな。それは地区予選で実証済みだ」

真崎「なんか俺がヘタに聞こえてヤだな」

姿「上手くはねーだろ」

真崎「めっちゃ上達したっちゅーねん」

連夜「まぁ、先代に比べれば安定感がな」

真崎「比べられたら痛いわ」

透「そういや連夜は腕大丈夫なんか?」

連夜「大丈夫。ここまで来ていてぇなんて言ってらんねーし」

木村「とにかく、今日は早めの継投で逃げ切りたい。野手陣頼むぞ」

松倉「ま、疲れてはいなんで大丈夫ですけどね」

司「いつでも代わるからな」

松倉「あぁ」



豹「またレンんとことか〜、因縁深いな」

水神「しかも同じ準々決勝だしな」

大澄「漣のお兄さん、カッコイイしな」

冴神「まだ言ってるのか……」

白夜「レン兄、髪切ってたろ」

大澄「またそれがいいんじゃないかい!?」

白夜「知らんがな」

冴神「知りたくもないし」

火影「っていうか桜花戦、先発させてくれないの!?」

水神「お前はだから泣いていたのか」

御藤「相手はCランクだが昨年、苦戦を強いられたからな。用心深くな」

火影「酷い……」

白夜「火影先輩は4番として力を発揮してくださいね」

火影「はいはい! やればいいんでしょ、やれば!」


 こうして両チーム、起用で少し揉めながらもプレーボール。


豹「先手必勝!」


 トップバッターは俊足好打のリードオフマン、進藤豹。


豹「1年ぶり」

連夜「夏始まる前に会っただろ」

豹「グラウンドで会うのがって意味だよ」

連夜「あぁそういうことか」

豹「悪いけど、今年もうちがもらうぜ」

連夜「言ってろよ」


ズバァンッ!


豹「(サイドハンドでここまで球速出してくるか……)」

松倉「(よし、いい感じだ)」


キィンッ


3塁審『ファール』


カァンッ


1塁審『ファール』


ズバァッ!


主審『ボールッ』


松倉「えぇっ?」

連夜「(際どい……)」

豹「ふっふ〜ん」

連夜「(選球眼良くなったな、豹……!)」


ズバァンッ!


主審『ボールッ、フォアボール』


豹「どうもっと」

松倉「チィ!」


 粘られ、結局根負けしフォアボールを与えてしまう。


連夜「………………」

豹「さぁ、行っちゃうよ?」


ザッザッ


連夜「(……牽制)」


サッ


豹「ゲッ!?」


ズシャアァッ


1塁審『セーフッ』


連夜「(癖を中学時代教えたの忘れたのかな?)」


 疑問に思いながらも前年度対決した時には癖のままだった。  そして今回も豹は癖を出してきた。  スタートを切ろうと思うと2度左足で地面を蹴るという癖を。


ザッ、ザッ


サッ


豹「ギャァッ!?」

姿「静かに帰塁しろ」

豹「レンめ、何で分かるんだ……!」

姿「(誰かチーム内で気づくやついなかったのかな)」


 おかげで豹を1塁に釘付けにし、後続を抑えた。


連夜「まったく……」

姿「しかし分かりやすい癖持ってるな」

連夜「俺と横海の高波ってやつでバッテリー組んでた時、練習であいつに盗塁許したことないんで」

松倉「それは高波がクイック上手いからじゃないのか?」

連夜「それもあるけど、いつ盗塁を仕掛けてくるか分かってたからね」

姿「なるほどな」

連夜「相手にバレたら厄介だなっと思って一度教えたんだけどなぁ」

松倉「ま、今はうちに有益だしいいんじゃね?」

連夜「だな」


豹「ちくしょう、レンめ……中学時代を思い出すわ……」

白夜「切り替えてください、キャプテン」

豹「お、おう」

白夜「昨年、ノックアウト食らってますし守備の助けが必要です」

豹「――! OK、守っていこう」

火影「リリーフならいつでもするからな!」

白夜「えぇ、お願いしますね」


 1回裏、桜花の攻撃は1番に戻った同じく俊足のシュウから。


白夜「しっ!」

シュウ「好球必打!」


キィーンッ!


白夜「チッ!」


 初球を狙い、センター前に運ぶ。


シュウ「さぁ、狙うぞ」


連夜「(ビャクはクイックが上手い。だが横海バッテリーほど速くないだろし)」


ズダッ!


水神「(ビシュッ!)

シュウ「てぇぇい!」


ズシャアァッ


2塁審『セーフッ』


水神「何っ!?」

シュウ「おっし!」

白夜「(速いな……うちのキャプテンぐらいか……?)」


連夜「ナイス盗塁」

白夜「(まぁ、いい。打者に集中しよう)」


 シュウが盗塁を決め、無死2塁。  打席には2番の連夜が入っている。


白夜「(さて、レン兄か……)」

連夜「………………」


 連夜の構えはいつも通り。  難コースを狙い打つ、第一形態。


白夜「(昨年、打てないから今の構えに変えたって言ってたけど……)」


 昔の構えでは本当にウィークポイントだったインハイを打てるようになったのか……  白夜は未だ半信半疑だった。


水神「(ここは漣に任せてもいいかな)」

白夜「(じゃあすいませんが、インハイでいきます)」


 ピンチとはいえ、まだ初回。  相手を知るには早い方がいい。


ビシュッ!


連夜「甘ぇよ!」


カキーンッ!


白夜「――!」


 インハイにコントロールされたボールを上手く捉えライト前へ。


シュウ「先取てーん!」


ビシュッ!


真崎「すべろ、森岡!」

シュウ「へ?」


水神「(バシッ)

シュウ「わぁお!?」


主審『アウトッ!』


大澄「はっはっは〜」

白夜「ふぅ……助かった」


 ライト大澄の強肩が光り、ホームタッチアウト。  このプレーには桜花も黙るしかなかった。


グッ!


ガキィンッ


真崎「やべっ」

豹「ほい」


 続く真崎はカットボールを打ち損ね、セカンド併殺打に倒れ初回の攻撃を終える。


白夜「大澄、ナイス」

大澄「おう、任せとけ!」

冴神「まぐれが出たな」

大澄「なにを!?」

豹「いや〜、しかし弟くんや。レン相手にインハイはないだろ」

白夜「やっぱ構え変えただけで打てるコースも変わるもんなんですかね」

豹「他の人はそう簡単に構えを変えたりは出来ないけどな」

白夜「ですよね。何がセンスがないから止めただ、まったく……」


連夜「大澄の野郎、いい肩してんな」

シュウ「ねぇ? あれなら久遠より凄いでしょ」

久遠「体格もいいもんな」

松倉「さ、いいから守るぞ」

連夜「あいよ」


 2回表、好プレーを見せた5番大澄からだったが松倉が得意のスライダーを駆使して3者凡退に抑える。  そしてその裏、桜花の攻撃は4番の姿から。


ピキィーンッ


白夜「あっ!?」

姿「しゃあ」


 ツーベースヒットで出塁する。  松倉が送って、1死3塁。初回に続いて得点のチャンスとなった。


白夜「(ビシュッ!)

久遠「(サッ)


カコーンッ


久遠「――!?」


パシッ


白夜「サード」


シュッ


姿「久遠……」

久遠「悪ぃ……」


 桜花サイドはスクイズを選択したが、結果は最悪のダブルプレーとなってしまった。


松倉「しっ!」


グググッ!


ガキッ


豹「ちぃっ!」


白夜「はっ!」


ズバァァンッ


透「なんやて!?」


 3回は共に両投手が好投し3者凡退と動きがなかった。  試合が動いたのは4回表。豊宣の攻撃。


キィンッ!


水神「よし!」


 1死から3番水神がヒットで出塁する。


連夜「(まぁいい。水神は足はない)」

松倉「(火影の長打だけ気にしてればいい、か)」


ズダッ!


連夜「んなっ!?」


シュッ


松倉「やべっ!」

火影「頂きやんす!」


ピキィーンッ!


佐々木「くっ」


 打球は左中間を真っ二つ。スタートを切っていた水神は一気にホームへ。  打った火影は2塁に進み、先制のタイムリーツーベースヒットとなった。


連夜「エンドランか。くそ、不用意だった」

シュウ「というか完全に失投だったよね」

松倉「うるさいうるさい」

連夜「とにかく次切るぞ。大澄は一発狙いだろうから避けるとして得点圏でビャクは厄介だ」

松倉「ふむ」

連夜「失投したら2点は入る。頼むぜ」

松倉「あいよ」


グググッ!


大澄「おらぁっ!」


ガキィンッ


大澄「ぐっ!」

月見里「はいよっと」


 外のスライダー、バットの先に当たりセカンドゴロ。  1年の月見里が軽快に捌いてこれでツーアウト3塁となる。


白夜「さて、もう1点欲しいところだな」

連夜「(ビャクか……まず低めは危険なんだよな)」

松倉「(じゃあ高め?)」

連夜「(中途半端だともっと危険だろ)」

松倉「(じゃあどうすんのよ?)」

連夜「(歩かせ覚悟でボール球で攻めるか、あえて球威で勝負に行くか)」

松倉「(低めっていっても内角だろ、得意なの。外角はどうなん?)」

連夜「(軽打で来られたらアウトだな。しかもランナー3塁)」

松倉「(軽打の可能性が高いか)」

連夜「(よし、内角低めのインスラで勝負しよう)」

松倉「(また博打だこと……)」


グググッ!


白夜「ハァッ!」


パッキーンッ!


松倉「ゲッ!?」

連夜「真崎ィッ!」


シュタタタッ


真崎「おらぁっ!」


バシッ!


ズシャアァッ


2塁審『アウトッ!』


白夜「くっ、超えなかったか……」


松倉「ふぅ、今日のレフト真崎で助かった……」

連夜「タッキーだったら超えてたな」

松倉「どうでもいいけど完璧に捉えられたけど?」

連夜「やっぱ低めは親父似で天才的だな。まさか反応してくるとは思わなかった」

松倉「んな感想いらんわ」


 何とか追加点は凌いだ桜花だったが先制されたのもまた事実。  4回裏、すぐに反撃に転じたい桜花の攻撃は1番シュウからの好打順。


白夜「しっ!」

シュウ「はぁっ!」


ピキィンッ


白夜「(バシッ)

シュウ「わぁお!」


 2打席目も捉えたが今度はピッチャー真正面のライナー。  白夜が反射良く捕球しワンアウト。


水神「(次は漣の兄貴か……)」

連夜「さぁ、来いよ」

白夜「(キャプテンが言ってたように難コース打つのが上手いらしいな)」

水神「(それってどう攻めればいいの?)」

白夜「(残されたのはカットボールか緩急……)」

水神「(でもカットは使えないんだろ?)」

白夜「(えぇ……俺より遥かにキレのいい横海の高波投手のカットボールをヒットにしてますからね)」

水神「(じゃあサークルチェンジか)」

白夜「(それしかないですね)」


シュルシュルシュル


連夜「よっ!」


カァンッ!


 外角に逃げていくチェンジアップを上手く拾ってレフト線に落とす。  1死から連夜がランナーとして出た。


白夜「(八方塞だな……今の方が嫌なバッターじゃねーか)」


真崎「よーし、続くぜ!」


ビシュッ


真崎「(――サッ)


カツンッ


白夜「(サッ)


 ここで3番真崎はセーフティバントを敢行。  だがフィールディングのいい白夜が落ち着いて捌いて1塁アウトにする。  結果は送りバントとなり、ランナーは2塁へ。


真崎「ま、最低限かな」

姿「後は任せろ」

真崎「おう!」


白夜「(4番か……さっき打たれてるせいかいいイメージが沸かないな)」


キィーンッ!


白夜「………………」


 そういう時は得てして良い結果は招かないものだ。


連夜「よっしゃ、同点!」


 2塁から連夜が生還し、1−1の同点に追いつく。


白夜「はぁ……なんか打たれる打者が決まってるな」

水神「向こうはCランクに位置付けされてるが打線は中々のモノだぞ」

白夜「最初からランクは気にしてませんよ」

豹「そうそう。舐めてかかったら終わりだぞ」

水神「お前に言われるとなんか癪に触るわ」

豹「どういう意味かな?」

水神「別に」


 5回の表、豊宣の打順は下位打線。松倉の前にチャンスを作れず無得点に終わる。


連夜「これで次、豹からだな。いいやら悪いやら」

松倉「とはいえランナー出して繋げられたら本末転倒だろ」

連夜「野球の流れって分からないから嫌だよね」

松倉「お前、なんでキャッチャーやってんの?」


パキャンッ


白夜「あっ!」

月見里「よっしゃ」


 5回裏、ツーアウトながら8番に入った月見里が内角低めを狙い打ちしレフト前へ。


白夜「(今のコース、レフト前に運びか……)」

水神「(完全に狙ってたな……)」


透「よっしゃ、ツーアウトからでもチャンス作ったるで」

白夜「(なんで透さん、9番なんだろ……)」

水神「(甲子園に来てHRも打ってる……用心はしないとな)」


 バッテリーで思ってることは違っても用心する気持ちは一緒だった。  現に倉科は桜花以外なら……いや桜花でもクリンナップを打てるだけの実力者だ。


グッ!


カキーンッ


透「甘いで白夜!」


 インコースのカットボール、少し甘く入ったのを倉科は見逃さなかった。  2死から2連打でチャンスを作り、このチャンスにバッターはトップに戻ってシュウ!


ピキィーンッ


シュウ「しゃあ!」


1塁審『ファール』


シュウ「ありゃ?」

白夜「(危なっ……)」


 強烈な打球が1塁線を襲ったが僅かに切れてファールに。  しかしこれが白夜にインパクトを与えたのか、上手く勝負にいけない。


バシッ!


主審『ボール、フォアボール』


シュウ「ま、いいでしょ」

白夜「はぁ……いかんいかん」


連夜「なんちゅー場面だよ……」


 5回裏、1−1の同点で2死満塁。  前半の山場を迎え、兄弟対決3回目。


連夜「(恐らくビャクは投げるボールがなくなったはずだ)」


 苦手だったインハイ、そして緩急をこの2打席の間にヒットにしてきている。  だが連夜自体にも懸念材料があった。


連夜「(それはヒットにしか出来てないってことだ)」


 捉えはしたがどちらもシングルヒット。  インパクトはやはり第二形態より落ちる。


白夜「(ん〜……厳しいな……)」

水神「(ここはカットボールとスライダーでいくか?)」

白夜「(……いえ、真っ向勝負させてください)」

水神「(え!?)」

白夜「(先ほどみたいに拾われたら2点です。だったらストレートで詰まらせます)」

水神「(詰まらせるならカットの方が……)」

白夜「(自分で言うのもなんですが、カットでは負けますがストレートなら高波投手より上だと思ってます)」


 白夜も確信ではないものの、ピッチャーの本能として感じていた。  この2打席、打たれはしたが勝負に負けているわけではないと。


水神「(……分かった。勝負しよう)」

白夜「(ありがとうございます)」


ビシュッ!


ズバァァンッ


連夜「チィッ!」


 初球、真ん中付近のストレート。  連夜のバットは空を切った。


水神「(真っ向勝負はいいが、コントロールは気をつけろよ)」

白夜「(すいません)」

連夜「(やはりストレートで来たか……1打席目みたいに狙い打ちじゃなきゃ厳しいかな)」


 そう、1打席目、ストレートを確かにヒットにした連夜だったが  それは狙い打ちだった。インハイで勝負してくるという確かな自信の元、狙い打ったのだ。


連夜「(とにかくここはヒットでいいんだ。欲を出さず、素直にバットを出そう)」


ビシュッ!


連夜「このっ!」


キィンッ!


冴神「たぁっ!」


バシッ


豹「セカンッ!」


ビシュッ


2塁審『アウトッ!』


シュウ「くはぁ……」

連夜「捕るか……あれ……」


 三遊間への鈍いゴロだったが真ん中に転がった。  それをショート冴神が横っ跳びで捕球し、膝をついたままセカンドに送球しフォースアウトに。  満塁の勝ち越しチャンスをファインプレーに阻まれた桜花だった。


松倉「ドンマイ」

連夜「あ、あぁ……」

姿「守ろうぜ、負けてるわけじゃない」

連夜「OK」


白夜「サンキュ、冴神」

冴神「おう」

豹「ナイスプレー」

冴神「この流れで攻撃に転じましょう」

豹「だな」


キィンッ!


月見里「くっ!」


 チェンジアップを上手く合わせセカンド頭上を越えるポテンヒット。  6回表、先頭の豹が塁に出た。


コッ


 それを2番冴神が送り、1死2塁とチャンスを作る。


松倉「おらぁっ!」


ズバァッ!


水神「うっ!?」


グググッ!


ガキィンッ


火影「あーッ!?」


 しかし3番4番を抑え込む。  そのエースの姿に4番が応える。


パッキーンッ!


白夜「――!」

姿「しゃあ!」


 内角ストレートを振り遅れずライトスタンドへ運ぶ姿の勝ち越しの一発。  今まで弱点だった威力あるストレートを狙い打ちとはいえスタンドまで運んだ。


松倉「ナイス!」

姿「真崎も打ってたしな、負けられるかっての」


パチンッ


水神「落ち着こう。まだ1点だ」

白夜「はい」

豹「この程度でふらつかないっしょ?」

白夜「大丈夫です」

水神「うちは後は主戦級は火影しかいない。頑張れよ」

冴神「落ち着けばお前なら大丈夫だろ」

白夜「あぁ」


 更に桜花は松倉のヒットと久遠のフォアボールでチャンスを作るが  白夜が後続を落ち着いて抑え、追加点は許さなかった。


松倉「よし、1点守りきるぞ!」

連夜「気負うなよ〜」

松倉「いや、少しは気負わせろ」

連夜「大丈夫だって。また姿が点取ってくれっから」

姿「まぁ……打つけど……」

松倉「いいからリードしっかりな」

連夜「へいへい」


 7回表、豊宣の攻撃は5番の大澄から。


大澄「目には目を! 1発には1発を!」

連夜「(こういうバッターは松倉のカモだ)」

松倉「(外角のスライダーとチェンジアップで交わす、か)」


グググッ!


パッキャーンッ!


松倉「うそっ!?」

連夜「………………」

大澄「おっしゃあ!」


 僅かに甘く入ったとはいえ、外角のスライダーを踏みこんで更にライトスタンドへ運ばれた。  パワーだけでなく技術がなければ右打者が松倉のスライダーを右方向にHRは考えられなかった。


連夜「野郎……なんで昨年、ベンチにも入ってなかったんだ?」

松倉「ちょっとショックだわ」

連夜「流石にな。甘かったとはいえ完璧に右に持っていきやがった」

シュウ「取られたもんは仕方ないってことで」

透「せやせや、切り替えていこうや」

連夜「それしかないな。大丈夫か、松倉」

松倉「あぁ」


 続く白夜にヒットを打たれるも後続を守備の助けもあり抑える松倉。  しかし、この回大澄に一発を食らい2−2の再び同点に。


白夜「よくやった、大澄」

大澄「任せ任せ」

冴神「初回の守備といい、お前ほんとに大澄か?」

大澄「どういう意味だよ」

豹「ささ、守っていくぞ2年トリオ」

大澄「うぃーす」


 7回裏、桜花の攻撃。先頭の倉科はセンターフライに倒れワンアウト。


シュウ「さぁ、こーい!」

白夜「しっ!」


グググッ!


ピキィンッ!


 1、2塁間を破るヒットでシュウがワンアウトから出塁する。


白夜「(ふぅ……次はレン兄か)」

連夜「(そろそろバレてきてるしな……厳しいな)」


ビシュッ!


ガキーンッ


連夜「ぐっ!」

冴神「オーライ」


 またもストレートの真っ向勝負でショートフライに倒れる。  対白夜に今の構えでは限界を感じていた連夜だった。


連夜「(でも長打を狙っても弱点ばれてるしな)」


 八方塞とはこのことを言う。  高校野球でここまで相手に手の内を読まれてることはそうそうないため  連夜もやり辛さを感じていた。


真崎「姿が相性いいみたいだし、なんとかまわしてやる!」

白夜「しっ!」


カキィンッ!


ビシッ!


真崎「しゃあ!」


 サード強襲、記録はサードのエラーとなったが真崎が鋭い打球で姿に繋ぐ。  2死2塁1塁で今日2打点の4番姿。


白夜「(塁が埋まってるとは言え勝負したくはありませんね)」

水神「(同感だな。フォアでいい、厳しく攻めよう)」


 結局、姿はストレートのフォアボールで歩き満塁となる。


シュルシュルシュル


ガキッ!


松倉「くっ!」

豹「よっしゃ」


 このチャンスに松倉はセカンドゴロに倒れ得点できず3者残塁。


木村「松倉、ご苦労だった」

松倉「うぃっす」

木村「薪瀬、行くぞ」

司「はい!」

松倉「同点で渡して悪いな」

司「問題ないよ」


 8回表、豊宣の攻撃は1番の豹から。  上位打線からということも考慮し、桜花サイドもピッチャーを薪瀬にスイッチする。


豹「おぉ、ここでエース降ろすとは層が厚いねぇ」

連夜「そっちとは違うんだよ」

豹「むっ、失礼な」

連夜「ほれ、早く構えろ。投げさすぞ」

豹「ったく、相変わらずだなぁ」


シュパァンッ!


豹「おぉ……」

連夜「(よし、今日も問題ないな)」

司「しっ!」

豹「たぁっ!」


ピキィーン


シュウ「ゴメン、無理!」


 打球は三遊間を破りレフト前へ。  これが薪瀬にとって地区予選から通じての初の被安打となった。


連夜「(やるねぇ、豹。司のストレートを完ぺきに捉えるなんて)」

豹「(よーし、ここは勝負所だ)」


ザッ、ザッ


連夜「(司)」

司「(あぁ、分かってる)」


ズダッ!


ビシュッ


冴神「――!」

連夜「しねぇっ!」


ビシュッ!


2塁審『アウトッ!』


豹「何ぃっ!?」


 盗塁を読んでの完璧なウエスト。  そして強肩連夜が2塁に最高のボールを送ってアウトにした。


豹「くそー……なんで読めるんだよ……」


連夜「しゃあ、ワンアウト!」

冴神「(いい肩してるな……)」


 この連夜のプレーでランナーを再びなくし、薪瀬がマウンドで躍動する。


ガキッ


冴神「くっ」


シュパァンッ!


水神「あー!?」


司「しゃあ!」

連夜「ナイスピー!」


 薪瀬が上位打線を結果的に3者凡退に抑える。  その裏、桜花の攻撃は6番の久遠から。


白夜「しっ!」


グッ!


ガキィンッ


久遠「ぐっ!?」


ビシュッ!


月見里「――!」


ズバァッ!


白夜「おしっ!」


 しかし8回裏、白夜も力投を見せ3者凡退に抑える。


連夜「やつめ、昨年とは違うってわけか」

透「なーに、次はワイからや。絶対サヨナラにしたる」

司「それを信じて俺は投げるだけだな」

連夜「あぁ、ここからは1発があるやつが続く。慎重にな」

司「あぁ」


 9回表、豊宣の攻撃は4番の火影から。


火影「よーし! 出るぜぃ」

司「しっ!」


シュパァンッ!


火影「んにゃ!?」

連夜「よし、ナイスボール」

火影「(慎重に行こう。ノビは凄いが速いわけではない。合わせれば打てる)」


しゅるしゅるしゅる


火影「ぎゃあっ!?」


ガキッ


火影「………………」

月見里「よっ」


 先頭の火影を簡単にあしらって、続くは松倉から同点弾を放った5番大澄。


司「しぃっ!」


シュパァンッ!


大澄「くぅっ!」

連夜「(こいつも追い込んでサークルが一番だな)」


シュルシュルシュル


ブ――ンッ!


大澄「無念……!」

司「おし!」

白夜「(いいチェンジアップ投げるな……)」


 自分のが参考にされてるとも知らずに白夜が感心しながらバッターボックスに立った。


連夜「(司の球威なら高めで勝負しても大丈夫だろ)」


ビシュッ!


白夜「はぁっ!」


パキーンッ!


真崎「(バシッ)

白夜「あー……」


 白夜の打球は上がらずレフトライナーに。  破壊力のある打順だったが薪瀬が難なく3人で切って取った。


透「よっしゃ、サヨナラいくでー!」


 9回裏、桜花の最終イニングの攻撃は9番の倉科から。


白夜「しっ!」


カキーンッ


透「オーケーや!」


 初球ストレートを捉えセンター前ヒットに。


ピキィンッ


シュウ「よっし!」


 更に1番に戻ってシュウもストレートを捉え、ヒットで続く。


白夜「(球威落ちてきたか……?)」

水神「(流石に漣の球威が落ちてきてる……)」


連夜「さーて良い場面じゃねーか」


 ネクストで待機していた連夜が勢いよく立ち上がり打席に向かう。


白夜「打つのか?」

連夜「俺が打って劇的に決める。それが俺の描くシナリオだ」

白夜「じゃあ俺はあんたを抑える。それが俺の描くシナリオだ」


 無死2塁1塁、2番連夜。打順的にも場面的にもセオリーは送りバントだが  木村もここは連夜の一打に期待をかけた。  そう期待させる何か、を連夜は持っている。


スッ


連夜「さぁ、きな」

白夜「(ここで昔の構え……か)」


 対横海、翔相手にも使った長打を狙う第二形態。  だが弱点は白夜にはバレている。


白夜「(緩急、そしてインハイ。これが弱点……)」


 だが緩急も狙われていては意味がない。  となると確実なのは狙ってても差し込めるインハイとなるのだが……


白夜「(9回に来ての俺の球威で差し込めるか?)」


 一つの懸念。それが球威の落ちてきたストレートで差し込めるかどうか。  カットボールは対高波で打たれてるため使いづらさがあった。


連夜「(俺がビャクならインハイに投げる)」

白夜「(……誘われてる気が……する)」


 そうすると無難に緩急か……?  だがどうしても狙われてる可能性が捨てきれない。  それほど連夜の第二形態にはインパクトがあった。


水神「(いい、インハイに来い)」

白夜「(水神先輩……)」

水神「(抑え込もうじゃないか。思いっきり来い)」

白夜「(……分かりました)」


連夜「さぁ、来い!」

白夜「しぃっ!」


ビシュッ!


連夜「(来た!)」


パッキーンッ!


連夜「いけぇっ!」

白夜「いや、上がり過ぎだ!」


 大飛球がライトスタンドへ向かって飛ぶ。  ライト大澄が懸命に下がり、打球を追う。


大澄「くっ!」


 そしてフェンスにつき、ジャンプ一番。


ワァァァッ!!!


白夜「………………」

連夜「………………」


 一人は天を仰ぎ……一人は強く……強く拳を握りしめた。





Finale


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