Best Friends

−5−


 中学に入学したばかり、まだいつものメンバーが全員他人だったの話だ。

翔「うぉぉぉ!!! みんなグッモーニン!!!」

クラスメイト「………………」

翔「むっ……反応が薄い……」

クラスメイト「………………」


 クラスのテンションを上げようと一人頑張っているところに一人近づいてくる。

進「朝から元気だな、お前」

翔「……お、お前は……」

進「あん?」

翔「お前なんて大嫌いだ」

進「初対面だろ!」

翔「ほーか? 良く思い出してみ」

進「え? …………ごめん、会ったっけ?」

翔「ふん、天才はこれだから……」

進「ってことはお前、野球やってんのか?」

翔「あぁ、高波翔。ショート兼ピッチャーだ。よろしくな」

進「あ、思い出した! あのザコピッチャーね」

翔「!!!」

進「あ、ゴメン。で、でもショートとしては中々だったじゃん」

翔「うるせーよ。俺はピッチャーがしたいねん」

進「俺でよかったら教えてやるけど?」

翔「さっすが桜星くん。話が分かるね」

進「調子良いな、お前」


 入学時お馴染みのクラスの自己紹介で翔が一発かましてくれたおかげで、緊張しがちだったクラスに笑いが起きた。
 翔中心にみな、次第に打ち解けてきたがそんなクラスの輪から一人外れているやつがいた。

進「………………」

翔「ん、どした?」

進「いや、アイツだけ席の端に座って関わろうとしてないからさ」


豹「………………」


翔「むぅ……つまり俺に突貫しろって言いたいわけだな」

進「まぁ……突貫はしなくて良いけど」


翔「お〜い、君もこっち来いよ」

豹「……ん?」

翔「せっかく同じクラスになったんだ。仲良くしよや」

豹「ほっとけよ。どうでも良いだろ」

翔「まぁそう言わず……えっと……」

豹「名前も知らんヤツと良く仲良くなろうとできるな」

進「それは一理ある」

翔「うるせー!」

豹「ま、俺のことは気にしないでくれ。それがお互いのためだ」


翔「……なんだ〜アイツ……」

進「色んなやつがいるんだ。しょうがないだろ」

翔「悪いけど俺負けず嫌いだから、あんな素っ気無くされたら追いかけるぜ」

進「(コイツ、しつこそうだもんな……)」


・・・・*

 それから豹への執拗な絡みが始まった。暇があれば傍に行き、休み時間はサッカーやバスケなどに引っ張りだした。


翔「よ〜し、豹! パース」

シュッ

豹「よっ」

ピシュッ


翔「ナイッシュ」


豹「……ったく……お前ら、懲りないな」

進「ははは、お前が心開いてくれるまで追い回す予定」

豹「………………」


 豹も次第には翔や進と一緒に行動することは苦にはならなくなってきたが、それでもやっぱり一定の距離を置いてる感じがした。
 そう思い立った翔はとある決断をする。

翔「豹の家に乗り込もう」

進「………………」

翔「どした?」

進「どうすればそういう結論に至る?」

翔「いや、俺らアイツと行動することは多くなったけど全然知らんやん」

進「まぁな」

翔「ってことで知るためにも家に行こうと思う」

進「……なーんか良くない気がするな」

翔「そん時はそん時だ」

進「………………」


 そして下校時間。部活に入ってない豹は早々に帰宅するため、二人はサボって追跡。……のはずが……

樋野「マテや」

進「ゲッ」

翔「監督! 弟が風邪で寝込んでいるんです!」

樋野「嘘つけ」

翔「ホンマやねん。なのに親が二人とも仕事だし、俺はおかゆなんて作れない。ってことで進に助っ人を頼んだ次第です」

樋野「え、マジで?」

進「え……えぇまぁ……」

樋野「そういうことならしょうがない。特別だぞ」

翔「ありがとうございます!」


 監督の上手く騙し、再び豹の追跡を開始する。

進「お前、弟いたの?」

翔「あぁ2つ下にな。風邪は嘘だけど」

進「それは分かってる」

翔「さてと、豹はどこだ?」


男「豹、待てったら!」

豹「うるさい! 俺に構わないでくれ」


ドンッ

翔「ギャフ!」


豹「ってぇ……お、お前ら……」

男「豹!」

豹「くっ」


ダッ

翔「痛たたた……な、なんだ?」

進「失礼ですけど、あなたは?」

男「ん、君たちは豹のお友達か?」

進「まぁそんなところです」

父親「あぁ見苦しいところを見せてしまったね。私は豹の父親だ」

進「あ、そうなんですか」

父親「間違っていたらすまないが、進くんと翔くんかな?」

進「え? えぇ……そうですけど」

翔「なして、俺らの名を?」

父親「やっぱりそうか。この前会話した時に『最近、頼みもしないのに絡んでくる二人がいてよ』って言ってたから」

進「へぇ……」

父親「君たちなら豹も心を開くかも知れない。……出来るならずっと友達でいてやってくれないか?」

翔「モチのロンっす!」

進「………………」

翔「……もちろんですよ!」


 進の視線を感じ、言いなおす。

父親「ありがとう……君たちには本当のことを伝えておこうと思う」


進「本当のこと?」

父親「私は本当の父親じゃないんだ」

進「…………はい?」

父親「……あの子は里子なんだよ」

進「なっ……」

翔「……進!」

進「ん?」

翔「里子ってなんだ?」

進「………………」


 翔に里子の説明をしてから、豹の父親に連れられ家に行くことになった。
 豹の学校生活などを聞きたいらしく、また進の方も詳しい豹の状況を聞きたかったから丁度良かった。

父親「豹は学校だとどうかな?」

翔「割と普通ですよ。人とは絡まないけど」

進「そうだな。俺らが引っ張りまわさないと一人でいること多いな」

父親「やっぱりそうなのか……」

翔「その里子とやらで、小学生の時イジメにあってたり?」

進「お前さ、もう少し言葉選べよ」

翔「あ、悪い」

父親「いや、気にしなくていいよ。話は聞かないが……まったくなかったわけじゃないだろう」

進「それより気持ちの問題だろ。豹自身のな」

翔「どゆこと?」

進「自分の親が本当の親じゃないってことに……ってすんません」

父親「だから良いって。多分、それはあるだろうな」

翔「そんな気にすることなんか?」

進「当事者にとっちゃ大問題だろ。つーかお前みたいなのがいるから豹はこーなってるんだ」

翔「なんでやねん……」

進「もうじれったいな。本人に聞いちゃおう」

翔「おい!」

進「あれこれ考えんのは正直性に合わないんだ」

翔「(意外だな)」

進「豹、どこに行ってるか分かります?」

父親「いや分からない。でも最近、傷というか顔や体にアザがあるのが気になって」

進「そういや……」

翔「首筋にアザがある場合は別に意味で要注意だな」


バキィ

進「行くぜ、翔」

翔「殴ってから言うなや……」


・・・・*

翔「で、どうしたんだ、急に?」

進「アホ、今日のHRで言ってたこと聞いてなかったのか?」

翔「あん? …………聞いてない!」

進「最近、中学生が相次いで暴行の被害にあってるらしい。豹のヤツ、巻き込まれてんじゃねーか?」

翔「何ぃ!? それは本当か!」

進「いや、俺の勘だけどさ」

翔「なーんだ。じゃあアテにならんな」

進「うるせぇよ。良いから探すぞ」


 二人で談笑しながら歩いていると、前から猛スピードで同級生が走ってきた。

中村「あ、桜星、高波! グッタイミング!」

進「中村? どうした?」

中村「例の暴行があっちで起きてる」

進「何ぃ!?」

中村「俺は何とか逃げてこれたけど、キヨとタツ、後氷室が巻き込まれてる」

翔「豹も? なして?」

中村「氷室のやつ、急に俺らと高校生の間に割って入ってきたんだ!」

進「――! 分かった。お前は先生に言って来い」

中村「わ、分かった」

翔「行くぜ、進」

進「あぁ」


・・・・*

高校生A「ヒャーハッハッハ。どうしてくれよう?」

高校生B「もうとことんやっちゃおうぜ」

豹「……お前ら、先逃げろ」

清村「あん?」

達川「お、お前は?」

豹「一人食い止める役が必要だろ。任せな」

清村「バカッ、そんなこと出来るわけねーだろ!」


高校生A「何勝手に話してんだよ!」

清村「ッ!」


バキィッ

高校生A「ガハッ……」


 清村に向かって拳を構えたが、それより先に豹の右手が腹を捉えた。

豹「早くッ!」

達川「氷室後ろ!」

豹「――ッ!」


ガンッ


 達川の助言で咄嗟に振り向いたおかげで腕で防げたが、バットだったため尋常じゃない痛みが襲った。

高校生C「ちょっと調子乗りすぎたんじゃない?」

高校生A「分からない子には体に教えてやらないとね」

豹「ケッ、俺はそんな趣味ねーけど」

高校生A「俺だってねーよ!」


バキッ

清村「氷室!」


高校生B「お前ら野球部みたいだな。俺もバット振るの好きなんだよね」

豹「――ッ」


 金属バットを手に持ち、思いっきり振りかぶる。

高校生B「オラァッ」


翔「ストォップ!」


ドンッ

高校生B「なっ!?」


ズシャアァ


 凄いスピードで翔が体当たりをする。相手共々勢いで地に倒れる。

豹「高波!?」

進「ふぃ〜……間に合ったか」

達川「桜星ぃ……」

清村「良く来てくれたぁ」

進「分かったから引っ付くな」


高校生A「チッ、なんだ貴様」

進「まぁなんだ……危ないよ?」

高校生A「何?」


翔「おらっ」


ガツッ

高校生A「ッ……」


 後ろからヘッドバットをかます翔。

翔「どうでい?」

進「上出来」


 進はそれから先ほど翔が突き飛ばしたヤツが持っていたバットを拾う。

進「ふぅ……バットってさ」

高校生C「あ?」

進「フンッ」


ビシュッ

高校生C「!!!」


ピタッ

進「こうやって振るもんだよ」


 高校生をボールに見立て思いっきりスイングをし、体に当たりそうなところで寸止めする。
 流石にビビッたのか膝から崩れるように地についた。

中村「みんな〜無事か!?」


 タイミング良く中村を筆頭に先生たちが駆けつけてくる。
 しかしちょうど来たところの状況を見ると、進や翔が高校生に暴行をしたようにしか見えなかったりする。

中村「…………どんな状況?」

達川「桜星と高波に助けられたんだよ〜」

清村「後、氷室にもな。良いから先生たち、こいつら何とかしてくれ」


 清村の言葉で呆然としていた先生たちが動き出し、高校生の身柄を捕らえた。

豹「ふっ」


 その様子を見て、豹は誰にも気づかれないようにそっとその場を立ち去ろうとした。
 まぁそう問屋が卸すわけなかったが。

進「どこ行くんだ、豹」

豹「……別に。家に帰るだけだよ」

翔「まぁ待て待て。一緒に助けたんだからさ」

豹「お前らだろ。助けたのは」

進「どうだか。キヨやタツはお前に感謝してるぜ」

清村「ホント、あんがとな!」

達川「氷室がいなかったら俺らもう死んでたわ」

豹「……それはちと大げさだろ」


 調子の良いやつらに豹にも自然と笑みがこぼれた。

翔「おっ? 笑ったな」

豹「わ、笑ってねーよ!」

翔「笑った顔カワイイな〜。お前、そっちの方が性に合ってるって」

豹「っざけんな!」

進「豹、俺らお前がどんなヤツだって構わないから」

豹「えっ?」

進「もう少し自分に自身持って良いじゃん。自分から殻に閉じこもんな」

豹「…………バカ親父か……」

翔「ってことで野球部に入部決定だな」

豹「は?」

翔「キヨ〜タツ〜、監督に報告&入部届け準備」

キヨ&タツ「あいよ!」

豹「ちょ、待て!」


 豹を静止を聞かず、走り出す二人。

進「豹、察してると思うが俺らはお前が里子っつーのを聞いた」

豹「あぁ……だと思った」

進「お前自身どうなんだ? それが影響して人と接しないのか?」

翔「(コイツ、本人にはストレートやな)」

豹「…………ふぅ……負けたよ」

進「ん?」

豹「お前らが初めてだ。どうして俺にそこまで構う?」

進「……ほっとけないから……かな」

豹「同情か?」

進「あるいはそうかも知れないな」

豹「……ハッキリ言うヤツだ」

翔「(まったくだ)」

豹「俺が人と接しない理由は、親しくなってもどうせいつかは離れるだろ? ならその場凌ぎ程度に付き合えれば良いって思っていたからだよ」

進「気づいたら親がいなかった、その事実が傷を作ってたんだな」

豹「さぁな。知るかそんなこと」

翔「オッケ。じゃあ話は簡単だ。ようは豹から離れなきゃ良いんだろ?」

進「そういうことだな」

豹「……俺は人は信用しないと決めた」

進「豹……」

豹「だから二度目はないからな。一度でもお前らが裏切ったら二度と信用しないからな」

進「あぁ約束する」

豹「……よろしく頼む。進、翔」

翔「おう!」

進「こちらこそ♪」


 豹が心変わりをした記念日、季節は春から夏へ向かってる証拠か太陽がいつもより長く顔を出していた。


〜To be continued〜


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