Best Friends

−6−


 最後の大会も終え、見事結果を残した連夜たちは次は進学を決める時期に迫っていた。

連夜「迫ってきたと言うか遅いくらいだけどな。普通3年上がったら意識するし、夏休みあけたら試験勉強1本だぞ」

進「何言ってんの?」

連夜「独り言。気にしないで★」

進「………………」

龍「ウッ! 気持ち悪くなってきた」

連夜「ウルセーッ!!!」


 その後、翔が馬紀と付き合ってることが判明する。  (※Best Friend2章のやり取り)

翔「と、とにかく! 俺は横浜海琳に行く!」

連夜「まとめてんじゃねーよ」

翔「すいませんでした」


進「……それはさて置き……」

龍「あぁ気がかりだな」


 夏休み明け、豹は一度も学校に来ていなかった。一週間も続けて休んだのは初めてで流石に気になっていた。

連夜「先生は風邪引いたって言ってたけどな」

進「……嘘だな」

連夜「ん?」

進「多分、先生も聞いてないんじゃないかな。それこそ俺らに言ったら大騒ぎだろ」

連夜「……考えすぎじゃないか?」

翔「俺もそう思うが、豹だからな……ちと……」

連夜「どういうこと?」

龍「帰り、家に行ってみるか?」

進「あぁ」

連夜「無視か〜?」

進「本当に風邪だったら良いけど……」

翔「そうだな」

連夜「あぁそうかい……」

龍「どんまい」


・・・・*

ピンポーンッ


進「…………いないのか?」


 放課後、豹の家に来てみたが人の気配がなく呼び鈴を鳴らしても誰も出てこなかった。

進「ダメか」

翔「豹の親父さん、仕事なんだっけ?」

進「学校の教師だったはず。帰ってくるまで待つか?」

翔「……そうだな」

龍「俺とレンでその辺探してみるよ。もしかしたらいるかも知れないし」

連夜「そうだな〜。俺、豹の親父さんと面識ないしな」

進「……分かった。頼む」

龍「オッケ」


 こうして豹を探すのと両親を待つのに分かれることにした。

 〜連夜・龍サイド〜

連夜「なぁ、なんで豹のヤツになるとあいつら目の色変わるんだ?」

龍「……さぁな。俺もその時は関わってなかったし」

連夜「あ、そうなの?」

龍「ただ……」

連夜「ただ?」

龍「豹と約束したんだそうだ。絶対裏切らないって」

連夜「ふぅん」

龍「あいつら、それを今まで忠実に守ってきたんだ」

連夜「……豹から裏切った場合どうすんだよ」

龍「あ?」

連夜「進や翔が健気にしてんのは理解できたが、逆はどうすんだ? あいつら、いい笑いモンじゃねーか」

龍「レン、言っていいことと悪いことがあるぞ」

連夜「お前らほどじゃねーけど、俺だって豹と今まで付き合ってきたんだ。 そんなヤツじゃねーってことぐらい理解してるつもりだ」

龍「だったら!」

連夜「でもな、物事に絶対はないんだ。それは小さな綻びでも大きく発展してしまうんだ」

龍「……レン……」

連夜「つーわけで、聞かせてもらうぜ」

龍「ん?」

連夜「氷室豹、俺が知らないことを言ってもらおうか?」

龍「俺の口からは言えないな」

連夜「だからお前からは聞く気ねーよ」

龍「は?」

連夜「バレバレだ、豹」


 連夜の言葉が聞こえたのか、物陰から豹がゆっくりと姿を表す。

豹「………………」

龍「豹!?」


・・・・*

 〜進・翔サイド〜

翔「……遅いッ!」

進「まだ30分もたってねーよ」

翔「俺もこれだったら探す側の方が良かったな〜」

進「お前な……」

翔「豹の母親も遅いな、ホントどうしたんだろ?」

進「確かに帰ってきても良い頃だな」


父親「そこにいるのは進くんと翔くんか?」

進「あ、こんちはっす」

父親「どうかしたのか?」

翔「それはこっちの台詞です!」

進「豹が一週間学校に来てないんですけど、本当に風邪ですか?」

父親「……君たちには相談してみても良いかもな。正直私もどうしたら良いのか分からないんだ」

進「どうしたんですか?」

父親「豹が本当の親と対面したらしい」

進「なんですって!?」

父親「そして中学卒業したらその親元に来ないかって言われたみたいだ」

翔「へぇ良かったじゃん」


バキィッ

進「お前はアホか?」

翔「殴ることあらへんやん……」

父親「でも翔くんの言うとおり良いことなんだ。良いことのはずなんだが……」

進「例え本当の親でも一度捨てられたんだ。そう簡単に『はい、そうですか』っていけるはずないだろ」

翔「そうか……そうだよな」

父親「それに君たちと出会ったからだろう」

進「え?」

父親「君たちと会ってから、豹は本当に笑うようになった。同じ高校に行こうって約束もしたんだろ?」

進「そうか……それ気にしてんのか」

父親「気にしてると言うより、そんな君たちと離れたくないんだろう」

翔「なんだ〜豹のやつ可愛いところあるじゃないか」


バキィッ

進「ゴメン、黙ってて」

翔「はい……」

進「で、豹はなんて?」

父親「ほっといてくれの一点張り。流石に夜には帰って来てるけど、顔を合わさないようにしてるみたいだ」

進「なんで……」

父親「私たちにも気を遣ってるのか、あるいは自分自身混乱している状態じゃないのかな」

進「……なるほど」

父親「豹が決めたことに関してはとやかく言うつもりはないが……」

進「あいつが残ろうと親元に戻ろうと、あいつが決めたことなら俺も言う気はないですが」

翔「が?」

進「あいつがらしくもなく人のことを考えてるなら俺がビシッと言ってやりますよ」


・・・・*

 〜連夜・龍サイド〜

龍「豹、お前なにしてんだよ!」

豹「何が?」

龍「何がって一週間もサボリやがって」

豹「気分が乗らなかっただけだよ」

連夜「それはおかしな話だな」

豹「あ?」

連夜「学校には風邪って連絡が来てるんだぜ。つまりサボりは親公認になるが?」

豹「それがどうした?」

連夜「お前の親はそんなこと認めるような親なのか?」


ガシッ

豹「何言っても構わないが、親をバカにするな」


 連夜の胸倉を掴み、鋭い目で睨む。しかし連夜は飄々としており、見ている龍のほうがハラハラしていた。

龍「豹、放せって」

連夜「俺は進たちと違ってお前の事情なんて知らねぇし、別に興味もねぇ。 だけどな、勝手なマネして周りの迷惑も考えな」

豹「事情も知らないヤツにとやかく言われたくはないな」

連夜「進や翔を見てると不憫で仕方がないんだよ」

龍「れ、レン……お前の言うことも分かるけど、落ち着けって」

連夜「俺は落ち着いている。だから俺みたいなヤツにとやかく言われたくないなら話してみろって言ってんだ」

豹「……ふぅ、何も知らないお前に一から話すのは面倒なんだけどな」

連夜「俺も一から聞く気にはなれないから要件だけパパッと言ってくれればそれでいい。龍は理解できるだろ?」

龍「ま、まぁ……多分……」

豹「んじゃ手っ取り早く言うが俺は里子だ。んで、本当の両親に中学卒業したら一緒に暮らそうって言われてんだよ」

龍「何ッ!? そうなのか!?」

豹「あぁ」

連夜「……一つ良いか?」

豹「ん?」

連夜「里子ってなんだ?」

豹「………………」

龍「(……そう来たか……)」

豹「まぁ早い話、本当の親が育てられないと子供を施設なんかに入れて、別の夫婦のところに行く子のことだ」

連夜「なるほど。大体は理解できたよ」

龍「しかし、本当か?」

豹「何が?」

龍「い、いや、本当の親と一緒に暮らすって」

豹「あぁ、夏休みの終わり頃に言われたんだよ」

龍「でもそれだったら何で悩んでるんだ?」

豹「……別に。誰が悩んでるって言ったんだ?」

龍「あん?」

豹「それは勝手にそっちが思ってるだけだろ」

連夜「ほーか? じゃあなんで学校来ないんだ?」

豹「だから気が向かないと……」

連夜「豹、俺は別にお前に信用されてようがされてまいがどうでもいい。 正直、他人のそういう話は重くて嫌いだしな」

豹「だったら……」

連夜「最初から関わるな? そうはいかねぇ。そもそもお前に関して動いてるのはお前のためじゃねぇ」

豹「じゃあ誰のためだ?」

連夜「進や翔、お前に振り回されてるやつらのためだ」

龍「レン、お前様子がおかしいぞ……」

連夜「だまってろ龍。マジで頭にきてるところだからな」

龍「(やっぱ怒ってんじゃねーか……)」

豹「だからお前らが勝手にやってることだ。俺が知ったこっちゃ――」


バキィッ

 有無を言わさず、連夜の左拳が豹の頬を捉えた。

連夜「口塞げよ、耳障りだ」

豹「何すんだよ、テメェ!」


ガシッ

 殴られ軽くよろめいた豹は再び連夜の胸倉を掴み、右腕を構える。

龍「ちょ、待て! 落ちつけ二人とも!」


 豹の拳より先に龍が割って入った。

龍「レン! どうしたんだよ、お前!」

連夜「別に……」


 連夜が顔を伏せた時、遠くから名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

進「リュ――ッ!!!」

龍「進! 翔!」

豹「お前ら……」

進「おっ良かった、豹……」

翔「おい、唇裂けてるじゃねぇか! 誰にやられた」


スッ

 翔の問いかけにそっと人差し指を連夜に向ける。

翔「へ?」

進「どういうことだ?」

龍「いや、急にレンが豹のこと殴って……」


 全員の視線が連夜の集中した。

連夜「んだよ」

進「事情が良く分からんが、ワケもなしにそんなことやるようなヤツじゃないだろ。どうしたんだ?」

連夜「豹が余りにガキっぽかったからついな」

豹「な――ッ!?」

連夜「ふざけんなよ。里子とかそんなのどうでも良いことだろ! お前は進や翔に甘えて、自分で決めることから逃げてるだけなんだよ!」

豹「言わせておけば!」


ダッ

龍「豹、やめろ!」


バキィッ

豹「――!」

龍「え……」

連夜「……なんのマネだ、進」

進「………………」


 突っ込む豹を制し、連夜を殴ったのは進だった。その光景にみな唖然としてしまった。

進「レン、お前は豹のことを知らないからそんなことを言えるんだ」

連夜「優しさだけじゃ何も解決しないぜ」

進「お前みたいに塞ぎこんでて強がってても何も解決しないがな」

連夜「進、案外言うじゃねーか」

進「今はお前と言い合いしてる場合じゃない」

連夜「ケッ……」


 進は連夜を背にして、豹を相対する。

豹「進……」

進「悩むなよ」

豹「何?」

進「今、お前が一番望むことを一番にして行動しろ」

豹「おいおい、何言い出してんだ?」

翔「聞いたよ、親父さんから」

進「そして連夜とケンカしてる辺り、ここで話していたことは同じ内容ってことだろ」

豹「………………」

龍「じゃあ、やっぱそのことで悩んでたのか」

豹「ふざけんな!!! 全部お前らの妄想だろ! 俺はそんなこと悩んだりしねぇ!!!」

進「強がるな」

豹「!!!」

進「連夜相手にムキになって、こんなことになってるお前が気にしてないだと?」


 進の目は酷く据わっていた。普段は決して見せない、進の度を越した時の目だった。  それは連夜は初めて、他の三人もかつて一回しか見たことがなかった。

豹「お前は俺をどうしたいんだ!?」

進「言ったろ? お前が一番に望むことをして欲しいって」

豹「俺はお前らと一緒に帝王に行って野球をする! そう約束しただろ!」

翔「………………」

龍「(まぁ流石にこの場面じゃ言わないけど)」


 誰しも、ここで女のためにやめようとしてるやつがいますけどっとは言い出せなかった。

進「豹、それは本心か?」

豹「なんだと?」

進「引っかかるんだよ、それが本心ならどうしてお前が今、こうなってんのか」

連夜「(怖いねぇ進は。キャッチャー向きだな思考が)」

進「俺らの約束とか忘れて、自分の気持ちと向き合ってみろよ」

豹「ハッ! なるほどな、進。俺と付き合うのは飽き飽きしたか?」

進「は?」

豹「俺が親のところに行けば、お前らとは一緒にいれないからな。そうなんだろ!?」

翔「豹! テメェ!」

龍「いい加減にしろよ!」


 豹の開き直りに今まで黙っていた二人も頭に来て、豹に襲い掛かろうとした。
 しかし、それを連夜が制する。

連夜「待て、お前ら。少し落ちつけ」

龍「ってお前に止められたくねーよ!」

連夜「まぁまぁ」


 ここは進に任せてみようぜ、そう付け加えた。
 翔と龍は不思議そうな顔を見合わせた後、進と豹の方を向きなおした。

進「なぁ豹、仮に俺らと離れるとしてそれで終わりだと思ってるのか?」

豹「違うとでも言う気か?」

進「お前さ、三年間築いてきた関係がそんなことで崩れるわけねーだろ」

豹「………………」

進「お前が野球を辞めなければ俺らは必ず会える。目指す場所は一緒だからな」

連夜「おー言うねぇ。進、そんなキャラだっけ」

進「茶化すなら黙ってろ」

連夜「へーへー」

豹「……一体どういうことだ?」

進「何が?」

豹「怖いもんだな。お前と話してると、こっちが考えてること見透かされてるようで」

進「お前が分かりやすいだけだよ」

連夜「怖がってんのも、俺らと離れることによって裏切られることじゃないだろ?」

豹「なっ……」

翔「へ、そうなの?」

進「……どういうことだ、レン」

連夜「何となく……な」

龍「何となくってお前……」

連夜「何となく分かるんだよ。本当の親に触れて、真実を知るのが怖い……だろ?」

豹「レン、お前……」

進「そういやお前も……」

連夜「あぁ。俺には母親がいない……いや、俺の記憶には母親がいなかった。だから何となく分かるんだよ」

龍「どういうことだ?」

連夜「簡単だよ。九歳の頃より前の記憶の中に母親がいないんだ。親父と離婚したのがその頃だって言うのにな。 すっかり忘れたらしいよ。俺だってそうさ、今更どうしてこんなになったのか知りたいとも思えねぇ」

豹「俺の気持ちが分かるってことは……」

連夜「あぁ。俺がもしお前の立場にだったら俺だって怖くなるだろうなって思ってさ」

進「これで連夜が苛立った理由も分かったわけだ」

翔「ん、どゆこと?」

進「豹を自分と重ねたんだろ」

連夜「ま、そんなとこだ」

豹「レン……お前だったらどうする?」

連夜「悪いが他人事だからな。逃げるなよって無責任なこと言わせてもらうよ」

進「同感だ。逃げることは悪いこと、とは言わないが俺は向き合って欲しいと思うよ」

豹「レン……進……」

翔「へへ、俺は信じてるぜ。豹はそんな意気地なしじゃないってな」

龍「そうそう。いつもふざけてるのに、こんなところで弱さ見せるようなヤツじゃないよな」

豹「お調子者どもが……偉そうに」


 言葉とは裏腹に豹は笑顔を見せていて、それに釣られ四人も笑みを浮かべた。

進「それにお前がそういう理由で帝王一緒に行けなくなっても裏切ったとは思わないよ」

豹「ケッ、人が言う前に言うんじゃねーよ」

龍「翔を見習って、豹もテキトーに考えろって」

翔「ははは……」

連夜「んで、どうするんだ?」

豹「ここまで言われて逃げたら、何言われるか分かんないしな〜」

連夜「そうだろうな」

豹「逃げずに真実と向き合ってみるよ」

進「豹!」

豹「お前らと野球できなくなるのはちょっと寂しいが……」

連夜「出来るよ」

豹「え?」

連夜「同じチームじゃなきゃできないのか? 相手がいるから試合ができるんだ。 野球を続けてる限り、またグラウンドで会えるさ」

翔「くくっ、レンらしくねー」

連夜「うるせー!」

龍「さてと、話済んだらラーメンでも食いにいかね? 俺、こういう話苦手なんだ」

翔「だなー。行くか!」

連夜「今日は翔のおごりだな」

翔「なんで!?」


豹「ふぅ……」

進「どした?」

豹「思いっきり言い合っても、また普段どおり接するんだなお前ら」

進「ケンカしなきゃ相手の思ってること伝わらないだろ。それで関係が拗れるならそれまでの関係なんだよ」

豹「そうなんだろうけどさ……」

進「奇麗事並べて上辺だけの付き合いもさぞ気持ち良いだろうけどな、上辺だけのカッコよさって俺好きじゃないんだ。 口だけでのヤツや、偉そうなことだけ口にする棚上げタイプは大嫌いでね」

豹「だろうな。見ててそう思う」

進「俺だってまだ中坊だからさ。考え方は変わるだろうし、俺が言ってることのほうが世間から見ればガキの戯言だろうけど。 でも、少なくてもマジで話せるダチがいるって後々大きいと思うんだ。ないよりはあった方が良いだろ、何事も」

豹「……お前らと出会って、俺変わった気がする。ありがとな」

進「別に、礼言われることはしてねぇよ。さぁ行こうぜ」

豹「あぁ!」


 豹は進たちと出会ってから逃げないということ、そして自分に嘘をつかないことを心に決めていた。
 中学に入ってからの豹は変わったと、豹を知るものは皆口にする。
 人間は間違いも失敗もする愚かな生き物だ。だけど同時に学習し、やり直せる生き物でもある。
 自分を変えるには自分から変えていかなきゃいけないんだと、そう進たちと出会い認識した。









豹「そういや、俺レンに殴られっぱなしだったな」

連夜「そんな昔の話だしね……」

進「んで、結局卒業後は一緒に暮らすことになって……な」

豹「あぁおかげさんで最初は色々あったが今では普通にしてるよ」

龍「いや〜あの時はどうなるかと思ったよな〜。レンも怖かったし」

連夜「だーかーら昔の話だっつーの」

翔「そういや豹も出会った頃はツンツンで苦労したな」

連夜「俺が転校してきた時は翔みたいだったのにな」

豹「人間変われるんだよな」

進「お前が言うと説得力はあるがムカつくぞ」

龍「さて校門前で話すのもアレだし入ろうぜ」

進「入って良いのか?」

翔「良いだろ! 卒業生だし」

進「いや、そうじゃなしに今日休みだぞ」

豹「部活動はやってるみたいだし、良いだろ。監督にも会えるだろうし」

連夜「………………」

豹「あ、大丈夫?」

連夜「ん……まぁ会わないわけにはいかんだろ」

翔「よ〜し、レッツゴー!」


・・・・*


カキーン

翔「おっやってるやってる」

樋野「あ? 高波か?」

翔「おぉ! 監督、お久しぶりです」

豹「まだ死んでなかったんですか」


ムニッ

樋野「おぉ、氷室。そういうのはこの口か?」

豹「ふひはへんへひた(すいませんでした)」

進「チース」

龍「ウッス」

樋野「おぉお前らもか。どうした、全員揃って」

翔「高校最後の大会前に同窓会を開いてみました」

樋野「いや、おかしいだろ。時期が」

連夜「まぁ良いでしょ。ほとんど関東の高校だし」

樋野「あ、ども」

連夜「ッス」

進「何、この微妙な空気」

豹「まぁ……仕方ないだろ。レンの彼女が監督の娘だもん」

龍「しかしレンは遊び人だからな。結構泣かせてるらしいぜ」

連夜「誤報を流すな!」

樋野「なんだと?」

龍「久々に地獄ノックとしゃれ込みましょう!」

連夜「龍、テメェ……」

龍「ふっ……いつぞやのお返しだ」


進「お前もかい」

翔「でもレンが泣かせてるって本当なのか?」

龍「んにゃ、別の意味でなら聞くけど」

進「んーと、表現には気をつけような」

龍「ん? えっとじゃあ――」

進「はいはいはい、分かった分かった」

豹「そういう進っちゃんは?」

進「俺に振るな」

翔「………………」

進「何か怖いやつがいるから」

豹「お前彼女いんだろ」

翔「それはそれ、これはこれ」

豹「最低だな。馬紀さんに連絡しとこ」

翔「ちょ……」


 それから連夜が地獄ノックを受け終わり、監督の計らいで部室・校内と見て回った。

樋野「そういやお前ら、甲子園出場は決めたのか」

進「もちろん」

翔「そりゃあね」

豹「昨年の優勝校として当然」

龍「楽勝に」

樋野「矢吹、俺は一応埼玉にいるから知ってるが今大会は東と西に埼玉も分かれている。州境と一緒なら泣いてただろ」

龍「なんのことやら?」

連夜「否定しねーのかよ」

樋野「漣んとこも優勝できたのか?」

連夜「うちも東西に分かれたおかげでな。まぁ東は激戦区になったからあんま意味なかったが……」

樋野「それはおめでとう」

連夜「………………」

翔「そういや進路の話になったんだが、豹はどうする予定?」

豹「そりゃプロ志望だが何せ第二期黄金時代と呼ばれるくらいだからな。俺がかかるか分からんし、大学も考えてる」

翔「ほえー堅実だな」

連夜「まったくだな。ウチは自信家ばっかりでプロ入り後のこと考えてるぞ」

進「それはお前だろ」

樋野「まぁお前らなら寝ててもプロ入りしそうだけどな」

進「買いかぶりすぎです。ちなみにレンの時に言ってた中学の〜って言うやつは言いませんよ」

樋野「な、なんで!?」

進「いや、事実じゃないので」

樋野「こんなかで一番プロ入りが近いのお前なのに……」

進「………………」

連夜「大体、進は高校卒業後、アメリカ行くらしいぞ」

樋野「へ?」

豹「そうなの?」

進「あぁ。ちと治療と勉強に」

豹「治療?」

進「右肩のな」

龍「痛みあんのか!?」

進「違う違う。ただ今より良く出来るらしいからな」

連夜「今でも十分だろ」

進「まぁそうだけど」

翔「そうだぜ。それにお前がいない間、ひか――」


バキッ

翔「ちょ……」


ドガッ! ゲシッ! ドゴッ!

豹「ったく……」

龍「危なかったな」

進「油断も隙もないな……」

連夜「???」

樋野「桜星、そのことがあったな」

進「は?」

樋野「ほら、有名になってインタビューされたら「今の僕があるのはショートにコンバートしてくれた中学の恩師のおかげです」とか」

進「いや、別にアナタに勧められてじゃないんだけど」

龍「………………」

連夜「そういや俺が転校してきた時からもうショートだったよな。俺、桜星がピッチャーって聞いて来たのに」

進「レンは完全に話を掘り下げ役だな」

翔「ってこの話は掘り下げても良いんか?」

進「俺はかまわないぞ」

豹「俺らが龍と出会った話でもあるし、良いんじゃない?」

龍「今度は俺か……」


 続いては中一にして超高校級と称された桜星進がまだピッチャーだった頃の話。
 龍と進、二人の野球人生の分岐点となった……中学一年の夏のことだった。


〜To be continued〜


NEXT⇒


inserted by FC2 system