連夜「せやっ！」
ズビシッ！
雨宮「おぉ……」
慎吾「ま、こんなもんだろ」
大学入学前、新生活への準備そっちのけで限られた時間を練習にあてている連夜。 その成長は目に見えて現れてきた。
雨宮「ですけどちょっと安定感かけますね」
連夜「ん？」
今日はもう終わるためにダウンに入り、慎吾はフェンスに寄りかかった。 そして軽くキャッチボールをしている連夜に疑問を投げかけた。
『その家族の極僅かな幸せの時間すら奪ってしまったからだよ……』
続けた言葉は慎吾と雨宮には届いていなかった。
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二章−試合２『努力する者、才持つ者』
| 練 習 試 合 | ||||||
| 先 攻 | 後 攻 | |||||
| 帝 王 大 学 | ＶＳ | 光 星 大 学 | ||||
| ３年 | ＲＦ | 相 川 | １ | 八 代 | ＣＦ | ３年 |
| １年 | ＣＦ | 尾 形 | ２ | 神 木 | ２Ｂ | １年 |
| ２年 | ＳＳ | 蔵 田 | ３ | 藤 浜 | ３Ｂ | ３年 |
| ３年 | ３Ｂ | 鷹 野 | ４ | 鞘 師 | １Ｂ | １年 |
| ３年 | １Ｂ | 福 浦 | ５ | 上 戸 | ＲＦ | ２年 |
| １年 | ＬＦ | 荒 金 | ６ | 如 月 | ＳＳ | １年 |
| １年 | Ｃ | 加 納 | ７ | 佐 々 木 | ＬＦ | １年 |
| ３年 | ２Ｂ | 小 坂 | ８ | 虹 川 | Ｃ | １年 |
| １年 | Ｐ | 諏 訪 | ９ | 漣 | Ｐ | １年 |
連夜「帝王戦は後攻か……」
虹川「神木、帝王出身だろ？ 何人か知ってるか？」
神木「まぁ一応はほとんど知ってるよ。二つ上の先輩となると当時は雲の上の存在だったから
知ってるだけで情報はあんまりないけど」如月「その辺は藤浜さんや八代さんが分かってるだろ」藤浜「まぁ、俺らも一応だけどな」連夜「んじゃ頑張りますか」
鞘師「漣、大丈夫ですか？」連夜「あぁ、何とかなるだろ」藤浜「この時期の帝王は割と主力組を温存する傾向がある。言わば新人のテストも兼ねてるってわけだ」佐々木「帝王高校からの上がりが多いしな。レベル高いだろうな」虹川「オーダー見ても分かるしな」連夜「だが逆に知ってる選手が多い分、俺も気が楽だ」如月「甲子園で八失点もした弱小校出身が言っても、こっちが安心できね」連夜「なんだと！？」佐々木「つーか七失点だ！」如月「おっとそれは失礼」虹川「大体、その前で赤槻負けただろ。人のこと言えないぞ」如月「その俺らに地区で負けたお前はどうなんだよ」
虹川「うぐ……」
神木「………………」…………*
八代＆上戸「いっくぞぉぉっ！！！」このチームで初めての後攻となった帝王戦、上戸＆八代を筆頭に素早く守備位置につく。 というより他の面々は二人の勢いに乗せられただけだったりするが。
連夜「みんな、早いな」如月「ん〜……ふわぁ……」虹川「急げよ！」しかしＷレンはマイペースでいつもより気持ち遅く感じるぐらいゆっくりと それぞれのポジションに向かって歩いていた。
連夜「（さてとトップは相川か……）」相川は黄金世代の選手。当然、その時の甲子園は連夜の印象に残っていた。 一年は同世代のため甲子園で戦っており、二年は神木が良く知っている面々だという。 つまり比較的情報を持って戦うことが出来るということだ。
相川「ふぅ……」虹川「（高校時代からヒットメーカーとして名を馳せていた……）」シュッ！
相川「しっ！」キィーンッ
外角のストレートを逆らわず三遊間へ。
如月「よっと」相川「むっ」虹川のサインによりポジショニングを三遊間へ移していた如月が軽く捌いてワンアウト。
連夜「さすが」如月「もう普通に感じてきたろ？」連夜「……そうだな」攻守にレベルの高い選手が揃っている光星。 その後のバッターも内外野の落ち着いた守備で問題なく抑えた。
諏訪「よし、甲子園のリベンジだ！」
加納「リベンジってお前、負けたわけじゃないだろ」諏訪「負けてはいないが俺はＫＯされたんだ。それに決勝じゃ投げれなかったし！」加納「まぁあれだ、左打者が多いからリリースしっかりやれよ」諏訪「ふっふっふ……甲子園の時以上に左打者には俺は有利になった。特と見せてやろう」加納「………………」一回の裏、光星の攻撃は変わりなく一番の八代から。 投球練習中に諏訪の情報を先輩らに伝える。 慶倫の神山とは違い、出場は少ないながら帝王の選手ってことで対戦した桜花出身を始め 同世代の選手は割と諏訪を知っていた。
神木「諏訪はアンダーですが左打者に対しては割と角度を持って投げてきます」連夜「サイドスローの下手って言っても良いかもしれませんね」八代「ふ〜ん……ってことはあんまり球筋的には有利じゃない？」連夜「見づらいですね」神木「後はスライダーとシンカ―が武器なんですが同じ変化球で緩急をつけてくるので気をつけてください」八代「ＯＫ」投球練習を終え、八代が左バッターボックスに入る。
諏訪「くらえっ！」シュッ！
八代「………………」ズバァンッ
初球、内角へのストレートを見逃し判定はストライク。 積極果敢な八代だが、ここは球筋を見るために打ちにはいかなかった。
ガキッ
八代「むぅ……」ツーストライクと追い込まれてからの緩いシンカ―を引っ掛け内野ゴロ。 しかしこの打席中、速度の違うシンカ―を投げさせることが出来た。
八代「ん〜確かにあれは厄介かも」神木「ちょっと投げ方変わってますね。右バッター対策かもしれません」八代「あ〜確かにそこまで見づらくはなかったかも」神木「左が多いうちにとってはついてるかもしれませんね」続くは帝王対策に二番に打順を上げた神木。
諏訪「むっ……神木か……」神木「よぉ」諏訪「ふっふっふ」神木「…………？」諏訪「いくらお前が俺を知っていようとも俺はもう昔の俺ではない！」神木「一ヶ月そこらでどう変化するんだよ」諏訪「特とみよ！」シュッ！
神木「（うわっ甘い……）」しゅるしゅるしゅる
神木「スライダーかよ！？」ガキッ
簡単に引っ掛けてしまい八代同様内野ゴロ。 ベンチに戻っていくとき、マスク越しだが微笑を浮かべた加納の顔が目に入った。
神木「あーくそ。加納のこと忘れてた」連夜「まぁお前が投手を良く知ってても、捕手もまたお前を良く知ってるからな」神木「諏訪の性格ばっかり考えてたが、それを読む俺を逆手にとりやがったな」佐々木「その証拠に神木を打ち取った後の諏訪、微妙な顔してたもんな」藤浜も内野ゴロに打ち取られ、初回は三者凡退に抑えられる。
諏訪「ねぇ、なんで？ なんで？」加納「何が？」諏訪「神木に俺の成長を見せようと思ったのに」加納「新フォームを一ヶ月でほぼ自分のものにしているだけで充分だろ」諏訪「嫌だ――ッ！ せっかく取得したカーブを投げたい――！」
加納「バッ！ 大声で叫ぶな！」攻守交替で光星の面々がポジションについているところ。 諏訪の声に九人全員が帝王ベンチを注目した。
如月「カーブだって」神木「あほか……あいつ……」鞘師「神木、高校時代カーブは投げてました？」神木「いや、さっきも言ったけどスライダーとシンカ―を投げてそれぞれで緩急をつけてたからな」如月「カーブでも緩急をつけれるのかな？」神木「ん〜……単純にスローだとしてもスライダーやシンカ―より遅いだろうし」如月「一番のスピードを誇るストレートとの緩急は広がるか」神木「あぁ。更にいえば、あいつのシンカー……ストレートと同等のスピード出るからな……」投球練習を終え、先頭の鷹野にお決まりともいえるフォアボールを出す。
如月「あのよ、漣。ＨＲでもいいからフォアは勘弁してくれ」連夜「いや、そうは言われても中々にそれって難しいもんなのよ」如月「もちろんストライク投げるだけなら俺が投げてもいいけど、それじゃ意味ないだろ？」連夜「……お前……」如月「高校時代のショートはさぞ守備範囲は広かったろう。でも今後ろを守ってる俺は安定感抜群だぞ？」連夜「自分で言うなよ……」連夜と如月は高校時代、一度だけ同じグラウンドでプレーしたことがあった。 その時は別に如月は主戦級というわけでもなく、エースを始めプロ入りした面々の方が目立っていた。 でも今思えばその試合、ショートにはやたらチャンスを潰された……気がしていた。
キィーンッ！
如月「そーいうの！」バシッ！
福浦「はっ！？」如月「合わせろ、神木！」シュッ！
神木「えっ！？」セカンドベースからややショートよりの打球を走りながら捕球。 勢いがついている如月はバックハンドでセカンドベースへトス……というか送球に近いほど強かった。 神木は弾いてしまうが、打球及び送球が強かったため拾ってセカンドはアウトにできた。
如月「えー……」神木「アホかお前！ あの距離と体勢であんなもん投げられたら驚くわ！」如月「まぁいい。次は合わせろよ」神木「お前……今まで普通にやってきてて……」如月「お前と二遊間組むのも三試合目。高校時代俺とセカンドを組んだ男は二試合で慣れたが？」神木「それはお前が本性を現してから二試合だろ？」如月「くっくっく。我が世代最高遊撃手と二遊間を組んでいた神木くんは俺程度のショートストップに合わせられないと？」神木「（こいつ……タチ悪ぃな……）」キィーンッ！
如月「そらよっ！」シュッ
神木「くんのっ！」バシッ
シュッ
今度はショート真正面の打球、如月は無駄のない動作で素早くセカンドへ送球。 一歩遅ければ一塁側ファールグラウンドを転々としていただろう送球を神木が何とかカバーしそのまま一塁転送。 今度はダブルプレーを成功させた。
神木「は、早ぇ……」如月「やるねぇ。俺も普段からそこまで早くはやらないから安心しろ」神木「（試されてたってわけね……）」連夜「ナイスプレー」如月「神木くんに言ってあげて」連夜「俺も一応自覚あるが、あいつも相当だな」神木「そうだな」佐々木「（自覚あったんだ……）」結果的に打たせてとれているため、野手への影響は比較的良かった。 その影響が早速、その裏の攻撃に現れる。
キィーンッ！
諏訪「んにゃ！？」加納「………………」二回の裏、先頭の鞘師がセンター前ヒットで出塁。 アンダースローとはいえ左打者には自信を持っていた諏訪は初球を打たれ少なからず動揺した。
バシッ
上戸「よ〜し！」諏訪「しまった！」五番、右打者の上戸にはフォアボールを与えてしまう。 せっかくフォームを少し変え、高校時代苦労した右打者にも対応できるように なったというのにこれでは水の泡だ。
如月「けちょんけちょんに言われてるけど？」諏訪「やかましい！」カツッ
諏訪「このっ！」加納「間に合わない！ ひとつ、確実に」諏訪「チッ！」六番如月がきっちり送りバントを決め、一死三塁二塁のチャンス。 このチャンスに打席に立つのは数少ない右打者である佐々木。
諏訪「ていっ！」佐々木「甘いッ！」ピキィンッ！
諏訪「ギャアァァッ！！！」加納「やかましい」一ヶ月でフォームを固めたとはいえ、所詮は一ヶ月。 少し狂わされればフォームが崩れてしまう。
連夜「おー亨介が打ったよ」虹川「よし俺らも続くか」佐々木の先制二点タイムリーで勢いづくもそこは帝王。 攻撃では空気になりつつあるバッテリーを堅い守りであっさりと打ち取る。
虹川「俺、慶倫戦で活躍したって！」連夜「まぁまぁ、打つのは鞘師たちに任せようぜ」虹川「あっさりかよ……」連夜「誰が打っても勝てばいいからな」虹川「………………」…………*
続く三回の表の帝王の攻撃は下位打線ってこともあり三者凡退に抑える。 一方の光星は落ち着きを取り戻せない諏訪を責め立て一死から神木がバントヒットと盗塁でチャンスを広げる。
諏訪「あーもう！ 神木のやろう！」加納「（ダメだこりゃ……）」一番八代を抑え少しは落ち着いたかと思ったら同期だった神木にかき回されまたイラっときたようだ。 藤浜はセカンド小坂のファインプレーに阻まれるも、四番鞘師がきっちりタイムリーを放つ。
如月「あいつ、なんであんなに打てんのかな？」虹川「それが分かったら、皆十割バッターだよ」如月「まぁそうなんだけどさ、あそこまで打つと気味悪いだろ」虹川「気味悪いってお前……」パッキーンッ！
如月「おっと打席まわってきたか」虹川「おぉ……上戸さんも打ったのか……」追撃のツーランホームランで差を四点に開く。
キィンッ！
諏訪「ぬわっ！？」ビシッ
如月「休ませません」虹川「（あいつ……）」狙ったかのようなピッチャー返し、諏訪が弾いてしまい内野を転がる間に一塁へ。 そして佐々木の初球、盗塁を仕掛ける。
ズダッ
加納「くっ！」二死ってこともありバッター集中だった加納は投げずに如月は二塁へ。 しかし加納の思いとは別に諏訪はこれまた落ち着きを失っていた。
如月「（というより落ち着いてはいないけどな）」ピキィンッ
トドメは佐々木の二打席連続連続タイムリーで五点差に。 ここで帝王は諏訪を諦める。
諏訪「うぅ……」加納「ムキになる性格直そうな」諏訪「せっかくの武器を披露する前に終わってしまった……」帝王の二番手、大見がマウンドに上がり虹川を抑える。
虹川「………………」五点差をつけた光星、四回の表の帝王の攻撃は一番相川からという好打順。 ここを抑えればこのまま抑えられそうな印象すらさせられるところだったが……
カキーンッ！
プロも注目したヒットメーカーが簡単に抑えられるわけがなかった。
連夜「あっさり打たれるとさすがにカチンとくるな」如月「つーか、今まできちんと抑えたことねーだろ」連夜「如月ぃ……言っていいことと悪いことあんだぞ？」神木「いや、言い方はともかく事実だし、んなこと気にしないできちんと投げろ」連夜「神木まで……分かったよ」バッテリーが素人と読んでか読まないでか、相川は二盗、三盗と立て続けに成功させる。
虹川「ぐっ……」連夜「どんまい、どんまい」投手連夜が打たれれば悔しい思いをするのと同じで、捕手虹川もまた盗塁を許せば悔しかった。 本職とかそうじゃないとか守備についてしまえば出来ないことはやっぱり悔しいに違いない。
連夜「いくぜ虹川」そんな虹川の思いを連夜は無駄にしたくないと思った。 深い意味はなかった。 ただ自分もキャッチャー出身、盗塁を刺せない悔しさは誰よりも分かっているつもりだった。
ズッバァンッ！
尾形「――ッ！？」虹川「……漣？」でもその悔しさは力となる。 連夜は今、試合を通して一つ楽しみを覚えていた。
クククッ！
蔵田「くっ……」虹川という選手を一端のキャッチャーにまで成長させること。
ズビシッ！
鷹野「なっ……！」自分はもう選手として長くないから…… 自分がグラウンドにいた証、キャッチャーとしての全てを虹川に託したい。 マウンドにいながら、ふとそんなことを思ってしまっていた。
…………*
その後、試合は膠着状態が続く。 互いにヒットは出るも、後一本が出ない状況。
川越「いや〜帝王高校時代は伊勢に隠れがちだったが俺だっていいピッチャーなんだぞ！」相川「そんなアピールいらん」川越「色々経てオリックス入団です！ 何が言いたいか分かるよね？」相川「………………」川越「失礼しましたー」佐々木「色んな人がいるもんだな」連夜「そうだな、将来オリックス行きの亨介くん」佐々木「あ？」連夜「ゴメン、ここだけの話だった」佐々木「………………」五回に帝王は投手をエース川越に交代。 そこからは連夜と川越の投げ合いとなった。
ググッ
ガキッ
川越「オッケーッ！」藤浜「あーしくった！」ズバァンッ
加納「うっ……」連夜「入ってるぜ」お互いスコアボードにはゼロが続き、試合は光星の五点リードでこう着状態になる。
虹川「お前……」連夜「ん？ 何よ」虹川「肩は大丈夫なのか？」連夜「だーかーら、それはお前が勝手に……」虹川「………………」連夜「……はぁ、大丈夫だよ。この試合ぐらい任せとけ」虹川「この試合って……まだ明日もあるんだけど？」連夜「そんときはそんときよ」虹川「………………」…………*
その後も両投手、好投を続けている。 七回の裏、光星の攻撃は一番八代からの好打順だが……
キィーンッ！
小坂「よっ」バシッ
八代「おっと」捉えた打球もセカンド小坂がタイミングよくジャンプし捕球。
如月「んじゃ、こんなのはどうでしょう」カツッ
福浦「甘いッ！」パッ
如月「おっと」一塁線へのドラッグバントも福浦の判断の良さと川越が素早くカバーに走りアウトに。
ピキィンッ！
相川「オーライ！」ズシャアァッ
藤浜「おっと」これも捉えるもライト相川の広い守備範囲に阻まれスリーアウトチェンジ。 川越のボールを段々捉えつつあるものの、堅い守備が更なる追加点を阻止した。
藤浜「あーちくしょう、悔しいな」連夜「ドンマイです」佐々木「川越さんもキレが落ちてきたな」連夜「元々先発型じゃねーの？ 早くね？」藤浜「川越は三振をとれるような決め球がないからな。球数は必然的に多くはなるけど」如月「まだ調整段階なんじゃね？ 俺と佐々木で結構投げさせはしたけどよ」連夜「ま、何にせよこのまま逃げ切ればいいだけだしな」虹川「漣……」連夜「任せろよ」八回表、帝王は七番加納からの打順。 帝王からすればランナーを出して相川にまわしたいところ。
連夜「しっ！」ズバァンッ！
加納「ッ……」それを連夜が力投をみせ許さない。
ググッ
ガキッ！
加納「あっ……」如月「ほれよ」スライダーを打たせショートゴロ。 連夜は投手としては本気を出したって所詮付け焼刃にすぎない。
ビシッ！
小坂「ぐっ」だが連夜のことを知っているものがいれば連夜が本職の投手に近い投球さえすれば翻弄できる。 連夜は今、自らがその知名度を挙げた左利きキャッチャーという肩書を盾に投球していた。
シュッ
連夜「――！」川越「だっしゃあっ！」パッキーンッ！
九番川越、帝王高校時代も投手ながら野手でもスタメンを 張っていただけありパンチ力も秘めていた。
八代「むぅ……」俊足八代も間に合わず、センターオーバーの長打を食らう。
連夜「（やべっ、抜けた……）」虹川「漣、大丈夫か？」連夜「大丈夫だって。いちいち来るな」虹川「（漣……）」どんなにコントロールのいい投手だって一試合でまったく失投がないわけじゃない。 いい投手はいかにその失投を要所で出さないか…… そしていい打者はいかにその失投を要所で打つか…… それが勝負の明暗を分ける。
連夜「らぁっ！」ビシュッ！
ズバァンッ！
相川「なっ――！？」スイングにいった相川だったがタイミングが合わなかったのか、相川のバットは空を切った。 連夜は気合一ついれマウンドを降り、相川は暫しバッターボックスに立ちつくしホームプレートを見つめていた。
神木「相川先輩？」相川「……？ あぁ、神木か」神木「え？ 何で俺の名前を……？」相川「俺が三年の時の一年だろ？ プレイスタイルが似てるって南雲に聞いててな。ちょっと目つけてたんだ」神木「そ、そんな……俺なんて」相川「ふぅ……あいつ、元々捕手なんだろ？」神木「えぇ」相川「チッ、悔しいな……投手じゃねーやつに三振食らうなんて」神木「あいつは不思議なやつですよ。桜星に似てる……そんな気がするんです」相川「桜星ねぇ……俺はあいつから南雲の雰囲気を感じ取った。この手に共通するのは天才肌ってことかな」神木「……ちょっと嫉妬しますね」相川「お互いにな」…………*
八回の裏、帝王は川越を諦め樋上にスイッチ。 この交代の際に川越がギャーギャーと騒いだが場面としては省略する。
カキーンッ！
鞘師「………………」先頭の鞘師が変わりっぱなを捉えツーベースヒットで出塁。一気にチャンスを作る。
カッキーンッ！
上戸「むっ、詰まってしまった」会心に見えた打球もやや芯を外してしまい、フェンス直前で失速。 しかしきっちりライトへ運び、二塁ランナー鞘師は三塁へタッチアップし進塁。
如月「ていっ！」ピキィーンッ！
小坂「（ダッ）」バシッ
チャンスに如月がいい当たりを放つも再三良い守備を見せているセカンド小坂に阻まれる。
ガキッ
虹川「しまった……」佐々木がフォアボールで歩くも虹川は初球を打ち損じて内野ゴロ。 鞘師が無死でランナーに出るも追加点を挙げることができなかった。
虹川「すまん」連夜「気にすんな。五点勝ってんだぞ？ 後一回抑えればいいだけだ」如月「勝ってるんだよな。な〜んかそんな気しねぇな」神木「多分、投手戦……漣が抑えて勝つなんて思ってもいないからじゃね？」如月「なーる」連夜「お前ら……」如月「でも冗談抜きでさ、今日のお前凄いよ」藤浜「それは確かに。レギュラークラスがそれほど出てないとはいえ帝王打線をゼロに抑えてるもんな」連夜「俺がすこ〜し本気を出せばこんなもんっすよ」如月「いつも本気出せよ」神木「（それ言っちゃ……）」九回表、五点を追う帝王は二番尾形からの好打順。
連夜「さ〜てと、最後までいくぜ」シュッ！
尾形「（サッ）」連夜「セーフティ！」カツッ
連夜「っと、そっちかよ！？」三塁線へ思いっきりチャージをかける連夜を横目に一塁側へドラッグバントを決める。
鞘師「………………」一塁は不慣れな鞘師のため特に慌てず、もう無理だと言わんばかりにゆっくりとボールを拾う。
神木「まぁ、無理しなくて良いけど……」鞘師「出来ないことはしない方が結果的に傷は浅くてすみます」神木「（これが成功の秘訣なのかな……）」ダッ！
連夜「チッ！」シュッ
蔵田「ハッ！」キィーンッ！
連夜「ゲッ！？」虹川「ゲッツー！」会心の当たりには驚いたものの、打球はショート真正面。
如月「ほらよ！」シュッ
神木「（バシッ）よし、ファースト！」シュッ
鞘師「（バシッ）」一塁ランナー俊足で、スタートを切っていたものの如月と神木の素早い動きで二塁フォースアウト。 そのまま一塁へ転送し、ダブルプレーが成立した。
如月「よしよし、慣れたな」神木「（絶対いつかファンブルするな……俺……）」実はついていけるのがやっとな神木だったが、短い期間とはいえ桜星と二遊間を組んでいたことは大きかった。 またセカンドコンバードしたさいに一つ下の後輩に守備の名手がいて、守備について学んだことも今に生きていた。 ただ一つ言えることは桜星は気を遣ってコンビネーションするのに対し如月は問答無用なところだ。
藤浜「あと一人だ」連夜「えぇ、終わらせましょう」シュッ！
ズバァンッ！
虹川「（凄い……）」虹川は元々捕手に憧れていた。 幼馴染で凄い投手がいて、自分で受けてみたいと思ったことが始まりだ。
ググッ
鷹野「このっ！」カァンッ
しかし、その投手は肩を壊してしまいバッテリーを組むことは叶わなかった。 そして高校では身体能力もあり、内野を任せられた。
連夜「ラァッ！」ズッバーンッ！
虹川「……ナイスボール！」連夜「どーも」でも今再び連夜のピッチングを受け、このポジションに憧れていたころの自分を思い出した。
相川「やられたよ。ナイスピッチング」連夜「いえ、たまたまですよ」川越「たまたまで完封なんてやられてたまるかよ！」如月「そうだぞ、漣。思いっきり嫌味を言ってやれ」連夜「これが俺の実力ですよ」川越「あ？」連夜「たまたまですって」加納「大学は投手一本か？」連夜「さぁね」加納「さぁねって……」相川「神木、またよろしくな」神木「いえ、こちらこそよろしくおねがいします」大学野球でも高いレベルに位置している帝王大学相手に五点を奪い、完封勝ちした光星。 連夜の好投は他の光星の野球部員に迷いを生じさせていた。 そして一緒にプレイしている者たちへ一筋光をより濃くしていた。
だが……
皆河「どうみる、鴻池」
鴻池「確実にやってるね」皆河「やっぱりか……」鴻池「どうすんだ？」皆河「忠告してやるよ。あいつは俺が対戦を楽しめる選手の一人だしな」刻一刻とそれは確実に刻みをいれていた。 それぞれの想いが紡いだ先にある未来は果たして光か闇か……？ 今は誰も知る由がなかった……
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